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信長の参謀  作者: 長崎くすお
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第8話 桶狭間の戦い(後編)

史実をベースにしたファンタジー作品です。

 やっと、義元が動き出したか。ここからが俺の出番。俺の仕事は、義元を狩場に誘導することだ!

 そのためには、義元に会う必要がある。

 そこで、俺たちは桶狭間山付近の沿道で今川軍が通過するのを待つことにした。


 目的地の沿道に着くと、百人ほどの地元民が今川軍の行軍を見物に来ていた。

 領主である義元を拝める機会なんかそうそうないだろうから、そりゃあ、見物に来るか。

 現代の日本で例えるなら、天皇陛下を拝見する感じかな!


 今川軍を待っている間に、俺は義元をどうやって誘導しようか脳内でシミュレーションしていた。

 二つの砦を落としているから、浮かれているに違いない。やっぱり、そこを突くのが一番かな!

 考えがまとまると、俺は彩乃に砦が落とされたのを利用できると告げる。


「丸根砦と鷲津砦の陥落は想定外だったが、逆に利用できる」

「利用? どういうことだ?」

「今川軍は、丸根砦と鷲津砦を陥落させているだろ? つまり、義元は勝利を確信しているはず」

「なるほど。油断しているってことか」

「そういうこと。だから、そこを突けば上手くいくはず。まぁ、見とけ」

「キモッ」


 俺は彩乃にドヤ顔でカッコつけてみせたが、魚が死んだような目で『キモい』と言われてしまう。

 相変わらず口が悪いが、俺は彩乃のこういうところも好きなんだよな。

 分かっていたが、やっぱり俺はMなのかもしれん。


 程なくすると、砂煙を巻き上げながら行軍して来る今川軍が現れた。

 二万五千もの大群を間近で見た俺は、不安で押しつぶされそうなる。


 この数相手に……本当に勝てるのか?

 いかんいかん。弱気なったらダメだ。


 俺は気合を入れるために、両手でほっぺたを叩く。

 そして、深呼吸をし、心を落ち着かせる。

 今川軍が半分くらい過ぎたあたりで、義元が乗っているであろう牛車(ぎっしゃ)が目の前に来たので、俺は牛車に向かって叫ぶ。


「義元様。龍二でございます。少し、お話をよろしいですか?」

「おぉ、龍二か? 久しいの。して、何用でおじゃるか?」

「丸根砦と鷲津砦を陥落させたと聞きました。それに、肝心の信長本隊は二千の少数みたいですね。なので、義元様率いる今川軍には手も足も出ないと思われます」

「ほーほっほ。その通りじゃ」


 義元は、満面の笑みで答える。

 やっぱり、浮かれているな。これなら、問題なく桶狭間山に誘導できそうだ。


「大大名である義元様が隣国(りんごく)の信長を討ち取ってくれると、この三河は安泰(あんたい)です。そこで、桶狭間山の盆地に、酒と美女数名を用意して前祝の準備をしております。ぜひ、英気を養ってください」

「ほー、これは気が利くではないか。では、そこで休憩を取るとするかの。だが、信長軍に本陣の場所がバレる心配はないか?」

「安心してください。用意した場所は山間に囲まれているので、見つけ出すことは困難だと思います。ですが、一つだけ問題があります」

「問題じゃと?」

「はい。それは、義元様の軍が大群過ぎて、全軍が盆地に入りきれないことです。恐らく、三千くらいの兵しか入れません」

「それ――」


 義元が何か言おうとしたが、俺は間髪入れずに続ける。


「入りきれない兵ですが、出入り口の警備を任せれば、万が一本陣を発見されたときも安心です」

「確かに、出入り口の警備は必要でおじゃる。入りきれない兵は、そこで休憩させるとしようかの」


 ――ヨシ! 上手く乗ってくれた。

 俺は義元を、桶狭間山の盆地に用意した宴会場に誘導した。


 このことを物見が信長に伝えるはずだから、俺の仕事は大方終わったな。

 あとは、信長が義元を討ち取ってくれるのを願うだけだ。



      ◇◇◇



 今川軍に酒を振舞っていると、義元の元へ物見から報告が入る。

 一言一句逃すまいと、俺は聞き耳を立てる。

 報告の内容は、織田軍二千が高根山の(ふもと)に陣を敷いているという報せだった。

 この報せを受けた義元は、松井宗信(むねのぶ)に六千の兵を持たせ出陣させた。


「予想通り軍を分けてくれたな。しかし、六千対二千か……可成様たちは大丈夫かな?」


 今川軍が三倍の兵力差で進軍したので、彩乃が少し不安そうな声で俺に話しかけてきた。

 俺は彩乃を安心させてやろうと、元気づける。


「三倍の兵力差なら何とかなるはずだ。切り札を用意しているし」

「そうだったな!」


 昼を過ぎたあたりから天候が急変し、ポツポツと雨が降ってきた。次第に雨脚が強くなり、視界が悪くなるほどの豪雨になった。


 ――来た! この(いくさ)最大の好機!

 あとは、山中に待機している信長本隊が奇襲して来るのを待つだけ。


 その時だった――


「――ん! 何の音でおじゃる?」


 雨音に混じり、『ドドドドド』っと、馬が駆ける音が響き渡る。


「義元様、敵襲でございます」


 今川軍の兵士が義元に状況を報告する。


「何じゃと……。なぜ、本陣の場所がバレたでおじゃる? ――龍二。もしや、お主か? いや、それよりもどこから侵入してきたでおじゃるか?」


 この地に誘導したのは俺だから、真っ先に疑われて当然だよな。

 実際、俺の仕業だし。上手くはぐらかさないと。


「いえ、俺ではありません。今は裏切り者を探すよりも、迎え撃つか逃げるかしないと討たれますよ」

「そ、そうじゃな。者ども、迎え撃つのじゃ」


 織田軍の突然の奇襲で、予想通り今川軍は大混乱している。

 あとは、信長と合流して義元の最後を見届けるだけだ。

 義元に何の恨みもないが、歴史通りなので俺を恨まないでくれよ。


「彩乃。混乱しているこの隙に信長様と合流するぞ」

「ああ」


 俺と彩乃は今川軍の混乱に乗じて、信長本軍に合流した。


「信長様。上手くいきましたね。義元はあそこに居ます」


 俺は義元が居る場所を指さす。


「龍二よ、でかした! 者ども、義元はあそこだ。かかれ」


 突然の奇襲と豪雨の影響で今川軍は指示系統が麻痺(まひ)していて、織田軍に手も足も出ない状態になっていた。


 辺りを見渡すと……腕や頭などの部位がそこら中に落ちていて、水溜りが真っ赤に染まっている。これが戦か――!

 初めて見る戦場に驚きはしたが、タイムスリップして戦国時代に来ているせいか、超リアルなVRゲームをしている感覚だ。

 そのせいか、目の前で人が死んでいくのを見ても何とも思わん。他人事ってのもあるかな。

 それに、桶狭間の戦いは勝ち戦と分かっているので、不思議と落ち着いて辺りを見渡せる余裕もある。


「彩乃。義元本隊に辿り着いている隊がいるけど、あれは誰だ?」

「あれは、良勝殿だな」


 義元本隊に突撃している隊は、毛利良勝隊だと彩乃が教えてくれた。


 ――良勝? もしかして、この毛利良勝ってのが今川義元を討ち取るのか?

 マジで、こんな武将知らんのだけど……。


 しばらくすると、義元が居る場所から歓声が上がる。

 目を凝らしてみると、良勝の刀が義元の胸を貫いていた。


 後日聞いた話だが、義元は胸を貫かれながらも最後の意地を見せ、良勝の左手に噛みつき、薬指と小指を()いちぎり戦死したらしい。

 義元のことを公家かぶれの能無しかと思っていたが、腐っても大大名か!


「義元の首を(かか)げ、織田軍の勝利を伝えよ。可成の居る戦場にも伝えたいが、この豪雨では狼煙(のろし)は無理か。急いで、伝令を走らせよ」

「ハハッ」


 信長の号令を聞いた部下が、義元が戦死したことを広めた。

 義元の戦死が戦場に伝わると、今川軍は駿河に撤退をし始める。

 ほどなくして、鷲津砦を守っていた朝比奈泰朝と、丸根砦を守っていた徳川家康が撤退したという報せが届く。

 こうして、桶狭間の戦いが終結した。

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