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信長の参謀  作者: 長崎くすお
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第7話 桶狭間の戦い(前編)

史実をベースにしたファンタジー作品です。

 尾張から駿河(するが)に向かう道中、俺は彩乃に設定を話し始めた。


「彩乃は俺の妻で、三河で酒屋を営んでいることにしてほしい……だけど?」


 俺の妻という設定が気に喰わなかったのか、彩乃は怪訝(けげん)な口調で返事をする。


「……分かった」


 簡単な打ち合わせをしながら歩くこと二日。俺たちは目的地の今川館に到着した。

 門番に義元から招待されていることを伝えると、使用人がやって来て、義元と氏真が待つ広場まで案内してくれた。


「よく来たでおじゃる。して、そちの隣におる女子(おなご)は誰じゃ?」

「妻でございます。妻の実家は三河で酒屋を営んでおります。それで、清酒をお土産にお持ちしました。どうぞ、お受け取りください」

「妻の彩乃と申します」


 嘘でも、彩乃が俺の妻と名乗るのは嬉しいもんだな。

 いつの日か、本当の妻にしてやるぜ!


「これは美味(うま)そうな酒じゃな。蹴鞠(けまり)が終わってから飲むとしよう。して、龍二は肥前の出身ではなかったのか?」


 当然の追求だな。想定内だ。


「はい、そうです。妻とは、行商で三河を訪れていた時に出会い結婚しました」

「そうだったでおじゃるか。話はこのくらいにして、蹴鞠を始めようぞ」


 蹴鞠の大会が終了すると、宴会が始まった。

 宴会が終わると、俺たちは用意されていた客間に案内され、一夜を過ごした。

 一夜を過ごしたと言っても、悲しいことに男女の関係などない――。


 翌日、俺たちは駿河を出発して尾張に向かった。

 三日後、俺たちは尾張に到着した。

 その足で俺たちは信長に会いに行き、桶狭間の戦いの策を提案する。


「信長様。今川家との戦の策ですが――」


 俺は信長に桶狭間の戦いで策の全容を伝えた。


「ふむ。なるほどのぉ。上手くいけば、最小限の被害で義元を討ち取れるな。龍二よ。彩乃と二人っきりで話がある。しばし、席を外せ」

「……はい」


 彩乃と二人っきりで話とは何だ?

 話の内容が気になるが、信長に命令されたので俺は部屋から出て待機する。

 五分ほど部屋の外で待機していると、部屋のふすまが開く。


「入っていいぞ」


 信長との話が終わったのか、彩乃が俺を呼びに来た。


「じゃあ、わたしは帰るから。龍二は信長様と話を詰めろ」

「帰るのか? 分かった。じゃあな。愛してるぜ」

「キッモ」


 彩乃に別れを告げると、俺は信長が待つ部屋に入る。

 部屋に入ると、信長から俺が提案した策で行くと伝えられた。



     ◇◇◇


[五ヶ月後]



 一五六〇(1560)年五月に桶狭間の戦いが起こるのは分かっているが、日付までは記憶にない。なので、五月に入ってから俺は毎日信長の元を訪れた。

 

「龍二よ。五月に入ってから十二日も経つが、いまだに今川軍が侵攻して来る気配がないぞ。本当に、この尾張に侵攻して来るのか?」

「……史実通りなら、侵攻して来るはず……です。まだ半月あるので、下旬に侵攻して来るかもしれません。もしくは、俺の知っている史実とは違うのかもしれません……」


 もしかして、俺がこの時代に来てしまったことで、歴史が変わったのか……?

 そうだとしたら……ペテン師扱いされ、首を斬られるかもしれん。頼む、義元よ。攻めて来てくれ。


 俺が神頼みをしている、まさにその時だった――。

 タッタッタッタっと、この部屋に向かって誰かが走ってくる音が聞こえた。


「殿ぉ。今川義元が二万五千もの大群を率いて、尾張に侵攻して来ました。どうしますぅ?」


 可成(よしなり)が、慌てた様子で信長に報告しに来た。

 だが、どことなく嬉しそうな口調に聞こえる。


(もしかして、可成は戦闘狂なのか?)


 信長は俺から桶狭間の戦いのことを聞いていたので、冷静な口調で可成に答える。


「やっと、動いて来たか。可成よ、そう慌てるな。義元が侵攻して来ることは分かっていたことだ」

「いやぁ、確かに数を聞いて少し焦りましたが、言うほどビビってないですよ」

「ハッハッハ! さすがは可成! 頼もしいな。して状況は?」

「今川軍は沓掛(くつかけ)城を目指し、行軍していると思います」

「思った通り沓掛城を起点に攻めて来るか。想定通りだ。可成よ。いつでも出陣できるよう挙兵の準備をしておけ」

「迎え撃つんですね? りょ~かい!」


 信長は可成を下がらせ、俺に話かけて来た。


「龍二の言う通り、本当に攻めて来たな。では、以前打合せしていた策を実行する。よいな」

「はい。任せてください。必ず、成功させます。信長様もご武運を」


 ヨシ! この世界は、俺の知っている歴史だ。

 チート能力がないと残念がっていたが、史実通りに時代が動くということはある意味チート能力。

 未来に起こる出来事を知っている俺は無敵だ! ワッハッハ!



     ◇◇◇



 それから六日後の十八日、桶狭間山付近で待機している俺と彩乃の元に伝令が来た。

 その内容とは、徳川家康軍が大高城に向け進軍しているという想定外のものだった――。


「オイ、徳川軍が大高城に進軍しているらしいぞ。大丈夫なのか?」

「……分からん。だが、最終的には勝つから信じてくれ」


 桶狭間の戦いに勝利することは分かっているが、戦の内容までは完璧に把握してないんだよなぁ。だから、大高城に家康が攻め込むなんて全く知らん。

 というか、桶狭間の戦いに家康が参戦してたのか? だ……いじょう……ぶ……だよな……。



     ◇◇◇



 ――その日の深夜の出来事だった。衝撃的な報せが俺の元へ届く。

 それは……丸根砦を守る佐久間盛重(もりしげ)が徳川家康率いる徳川軍に敗北し、戦死したという内容だった。

 数刻後、鷲津砦を守る織田秀敏(ひでとし)も、朝比奈泰朝(やすとも)率いる今川軍に敗北し、戦死したという報せも届いた。


「オイ、丸根砦と鷲津砦が陥落したみたいだぞ。ヤバイんじゃないか?」


 彩乃が焦った表情で、俺に言い寄ってきた。


「大丈夫……だと思う。何度も言うが、俺を信じてくれ」


 そうは言ったものの、強気な性格の彩乃が焦った表情を見せて来たので、俺も自信が無くなってきた。

 ――だが、もう後戻りはできない。そう、やるしかない!

 俺は自分自身に言い聞かせ、鼓舞した。


 しばらくすると、義元が沓掛城から尾張侵攻の拠点である大高城に向けて進軍を開始したという報告が届いた。

徳川家康は、桶狭間の戦いのときは『松平元康』ですが、途中から名前が変わると こんがらがる人もいるので、晩年の名前で登場させています。

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