第4話 彩乃登場
史実をベースにしたファンタジー作品です。
清洲城の城門前で待っていると、小柄な男が話しかけて来た。
「拙者は、秀吉と申す。お主が、龍二ッスか?」
秀吉? 今、秀吉と言ったのか?
だとしたら、これが後の天下人、豊臣秀吉か! 史実通りで、小柄だな。
信長亡き後のことを考えるなら、秀吉とは仲良くしとかないと。
「はい。龍二です」
「聞いてた通りッスね。確かに、不思議な格好をしておる。では、信長様のもとに案内するッス。拙者について来るッス」
俺は秀吉に言われた通り、あとを付いて行く。
「着いたッスよ」
秀吉が部屋の戸を開ける。
部屋の中を見渡すと、そこは旅館の宴会場みたいな大広間だった。
その部屋には、信長以外に家臣たちも居た。
「信長様、言われた通り龍二を連れて来たッス」
「猿、ご苦労だったな。お前もメシを食べていけ」
「へい。では失礼します」
秀吉は空いている席に座った。
「この度は、お招きいただきありがとうございます」
「挨拶はいいから、そこの空いている席に座れ」
信長は礼儀作法みたいなものが嫌いなのか、せっかちなのか分からないが、俺に早く席に着くよう急かす。
俺は急いで、用意されていた席に着いた。
「鷹狩りの時に見た者もいるだろうが、こやつが四百年後の未来から来たという龍二だ」
信長に紹介されると、家臣たちが自己紹介を始めた。
「ワシは、林秀貞じゃ」
林秀貞って言えば、確か織田家の重臣だった……はず?
微かに記憶にあるくらいの人物だな。
「自分は、佐々成政だ」
佐々成政?
確か、家康に援軍か協力を求めるために真冬のアルプスを越えをした伝説がある人物だよな。
いや、そこまでして会いに行ったのに、家康に断られたから伝説になっているのかな!
「俺は、丹羽長秀」
確か、幼名が万千代だったけか。
名前は有名だが、それくらいしか記憶にないな。
「俺っちは、森可成だ。よろしくな」
これが森可成か!
美男子で有名な蘭丸の父親だけあって、イケメンだな。蘭丸のイケメンは遺伝か! 羨ましいぜ。
それよりも気になったのは、チャラそうな性格だ。現代で言うチャラ男っぽい感じの人なのかな?
「拙者は、毛利良勝でござる」
毛利良勝? 織田家に毛利なんていたのか?
戦国時代の毛利と言えば、元就しか知らんわ……。
「僕は、池田恒興です」
信長の重臣のはずだが丹羽長秀と一緒で、名前を知っている程度の人物だな。
「最後はわたくしですね。信長様の妻の帰蝶でぇす」
これが斎藤道三の娘で、帰蝶こと濃姫か。美濃の姫で濃姫だっけか。
なんかキャピキャピした感じの人だなぁ。
「さて、ここに居る全員の自己紹介が終わったな。では、鷹狩りの続きと行こうか。早速だが、懐中電灯とやらを使ってみてくれ」
「「「「おー!」」」
俺が懐中電灯と、持っていたランタンの灯りを点けると歓声が上がった。
「未来には、火を使わずに灯りを照らすことができる道具があるのか? 灯りの持続時間は?」
「このレバーを回すか、ここの部分を太陽光に当てている間なら、永久に点灯させることができます。この懐中電灯は譲れませんが、こちらのランタンは信長様に差し上げますよ」
「何? わしにくれるのか?」
余程嬉しかったのか、信長は満面の笑みになった。
「はい。ご自由に使ってください」
「では、ありがたく頂く。他にも、未来には凄いものがあるのか?」
信長の質問に答えるために、自動車・飛行機・電車などの乗り物、テレビ・冷蔵庫などの電化製品、海の向こうには日本の何十倍もの広大な土地が広がっている、月に人類が行ったなどの話をしたが、家臣たちは半信半疑の目をしている。
――だが、信長だけは違った!
目を輝かせ、未来の話に喰いついていた。
「未来が今と比べられないほどの文明を築いているのは分かった。だが、それは未来の話。大事なのは今だ」
「そうですね」
「では、本題に入る。未来から来たというなら、この群雄割拠の時代を制し、天下統一を成し遂げた者を知っているな? それは誰だ?」
やっぱり、そういう質問来るよね。信長と答えたいところだが……どうする?
秀吉と本当のことを言うか? いやダメだ。秀吉と言えば、何か理由を付けて殺すかもしれない。はぐらかすしかないか。
「すみません。天下統一を成し遂げた者の名前は言えません」
「言えんだと? ……なぜだ?」
「それは、下手に干渉して俺が知っている歴史と変われば、俺が困るからです」
「……では、質問を変えてやる。わしの名前を出さなかったということは、わしが天下統一をしたわけではないってことだよな?」
信長の名前を出さなかったから、当然そういう質問になるか!
後に家臣となる明智光秀に謀反を起こされ、自害することになると言えば家臣にしないだろうしなぁ。
そうなると、歴史が変わり俺の都合が悪くなる。このことも黙っておこう。
「おっしゃる通りです。残念ながら、信長様は天下統一をしていません」
「では、なぜわしの元へ来た? 天下統一を成し遂げた者を知っているのなら、その者の元へなぜ行かん?」
いや、あなたが猿と呼んでいる人が天下を取るんですよ……とは言えるはずもない。
それに、この時代で俺みたいなどこぞの馬の骨を雇ってくれるのは信長しかいないからな。上手く説明しないと。
「理由は簡単です。信長様以外の大名は、血筋や身分がないと家臣に採用しません。ですが、信長様は頭でっかちの大名たちとは違って、柔軟な思考の持ち主と未来に伝わっています。なので、未来から来たという訳の分からない俺でも採用してくれると思い、他の大名ではなく信長様の元へ来ました」
「ハッハッハッハ。柔軟な思考の持ち主か。確かに、わしは実力至上主義だからな! 有能ならば、身分は一切関係ない。気に入った、気に入ったぞ。自称未来人を手元に置くのも一興! いいだろう、わしの家臣にしてやる。精進して働くがよい。ただし、裏切ったときは、即その首を切り落とすからな」
「ありがとうございます。首を切り落とされないように、力の限り頑張ります」
おっしゃぁ。何とか信長の家臣になれたぞ。
だけど、自称未来人か……。
「もう一つ聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「この群雄割拠の戦国の世を統一できれば、天下泰平の世が待っているのか?」
意外だな。信長は天下泰平の世を夢見ていたのか!
「天下統一後、二六〇くらい天下泰平の世になります。ですがその後、国を真っ二つに分けた戦が起きます。なので、天下泰平の世が待っているかというと微妙なところです」
俺は幕末のことを正直に話した。
「聞いたか皆の者。わしが天下統一をしなかったら内乱が起こるらしいぞ。ならどうする?」
可成が質問に答える。
「信長様が天下統一をするっきゃないでしょ」
「その通り。わしが天下統一を成し遂げ、内乱が起きない歴史に変えてやるまで」
「「「おぅ」」」
信長の言葉に、織田家の家臣団が一致団結した。
「ところで龍二よ。刀は使えるのか?」
「俺の時代では刀を使うことはないので、一度も持ったことありません」
「なら、この時代で生き抜く力が必要だな。猿。彩乃を呼んで来い」
「へい」
と、返事をした秀吉は席を立ち、部屋を出て行った。
しばらくすると、秀吉と共に髪が腰まであるストレートヘアーが特徴の女がやってきた。年齢は……二十歳くらいか。
この女性が、さっき言っていた彩乃という女性かな?
「信長様。何用でしょうか?」
信長が俺を指さし、彩乃と思われる女性に命令する。
「彩乃に頼みがある。そやつに剣術を指南してくれ」
「わたしがですか?」
「そうだ」
「……分かりました」
彩乃はめんどくさそうな表情で快諾した。
「何か分からんが、よろしく」
彩乃が俺を見て声をかけてきた。
彩乃と目が合った俺は、雷に打たれたような感覚に陥った。
――そう、一目惚れである。
そして、次の瞬間、
「好きです。付き合ってください」
酒が入っていた俺は酔った勢いで、彩乃に告白していた。
やべ―! めちゃくちゃタイプだったのから、条件反射で告白してしまった……。いや、脊髄反射ってやつか?
今まで出会うことがなかった俺の理想の女が目の前に現れたんだからしょうがないか。
「キッッッショ。出会ったばかりで『付き合ってください』とか、アホなの? ねぇ、アホなの?」
うわっ。飲み屋街の端に吐き捨てられたゲロを見るような目で俺を見ている。完全に汚物扱いされてしまった。
開口一番が告白だから、当然の反応か。こうなったら、猪突猛進だ!
後に引けなくなった俺はヤケクソになり、キザっぽいセリフを口にする。
「出会ったばかりですが、一万年と二千年前からあなたを想っていました」
「ハァ――。マジでキモいんだけど……。一万年と二千年前から? 信長様。こいつ頭のネジが外れているみたいですが?」
やっぱ、響かなかったか。
現代でも同じこと言われそうだし、仕方ないか……。
「ハッハッハッハ。そうか、龍二は彩乃を気に入ったか。それは良いことだ」
「信長様。笑い事ではありませんよ」
「まぁそう言うな。龍二を頼むぞ」
「えっ! マジですか? 信長様の命令なら従いますが、変なことされたらぶっ殺しますよ」
何? 彩乃が教えてくれるの? 何か分からんが嬉しい展開。
「よろしくお願いします」
「……おぅ」
第一印象が最悪だったからか、俺に対する彩乃の反応が良くない。
こっから、挽回していくしかないな!
彩乃に気に入られようと考えていると、信長が俺に話しかけてきた。
「狭いが龍二の家を用意した。今後はそこで暮らすといい。あと、その服装では何かと不便であろう。この時代の服も用意しておいた。着るが良い」
「ありがとうございます。信長様に内密のお話しがあるので、二人だけの時間を作ってもらえますか?」
「……分かった。明日の巳の刻(十時)に来い。猿。龍二を家まで案内してやれ」
「では、失礼します」
俺は秀吉に案内され、用意された家に向かった。
この頃は豊臣秀吉ではなく、木下藤吉郎という名前ですが、途中で名前が変わるとこんがらがる人もいると思うので晩年の名前で登場させています。