第9話 初めての論功行賞
史実をベースにしたファンタジー作品です。
桶狭間山から清洲城に戻る道中、俺は信長に話しておかないことがあるので話を切り出す。
「信長様。事後報告になりますが、お伝えしたいことが……」
「――なんだ?」
「はい。お伝えしたい事とは、謹慎中の利家殿が参戦した件です」
「……利家がこの戦に参戦? どういうことだ?」
ヤバイ。さすがに、黙って動いたことに怒っているな。
「俺が信長様を含めた織田家の人に無断で参戦してくれと、利家殿に頼みました」
「なぜ、わしに黙っておく必要があった?」
「信長様に黙っていたのは、どこかで情報が洩れて、利家殿の奇襲が失敗する可能性を無くすためです」
「情報漏洩? 龍二よ。わしから情報が洩れるとでも思ったのか?」
やっべぇ。相当怒ってる。
「いえ。ですが、万が一の可能性も無くすためだったのです」
信長は深呼吸をしてから、口を開く。
「ふぅ―。まぁ良いだろう。無断で動いたことは万死に値するが、狙い通り、義元を討ち取れたから今回はなかったことにしてやる。だが、次はないからな。肝に銘じておけ」
「ありがとうございます。以後、気を付けます」
ふぅー。何とか殺されずに済んだ。
やっぱり、内密に動くのは止めよう。
◇◇◇
[桶狭間の戦いが起こる一ヶ月前]
「彩乃。前田利家に会いたいのだが、どこに行けば会える?」
「――利家殿に会いたい? 何のために?」
「一ヶ月後に起こる合戦の鍵になる男だからだ」
「前に話したことがあるだろ? 忘れたのか? 利家殿は謹慎中だぞ」
「もちろん、覚えてるよ」
俺は彩乃を何とか説得し、彩乃と共に利家の家に向かった。
「着いたぞ。これが利家殿の家だ」
これが、利家の家か! 豪邸かと思ったが、普通の一軒家なんだな。
まぁ、当然か。この頃の利家は、加賀百万石の頃の利家じゃないんだからな。
「ここで待ってろ。利家殿を呼んで来る」
「おぅ」
利家邸の前で待っていると、彩乃が利家を連れて出て来た。
これが前田利家! 思ってたイメージと違って、身長が高いな。一七八センチある俺よりも高くないか?
「よぉ! お前が未来から来たという、龍二か?」
「はい。初めまして、鬼塚龍二と言います。利家殿にお伝えしたい内密の話があって来ました」
「内密の話? あ~その前に、俺様は堅苦しいのが嫌いだから、今後はタメ語で構わんぞ」
利家は五大老の一人だから、勝手に堅苦しい性格かと思っていたが、彩乃や可成と一緒でフランクな性格なんだ。意外だったぜ。
「……分かった。実はーー」
俺は利家に、約一ヶ月後に今川義元が大群を率いて、尾張に侵攻して来ることを伝えた。
「ナニィ? 今川軍が攻めて来るだとォ? それが本当なら面白いではないか。ワッハッハッハ」
「……面白い?」
「あぁ。戦は面白いぞ! だが、俺様は謹慎中だから参加できんがな……」
もしかして、利家は戦闘狂なのか? 知らんかった……。
「もちろん、謹慎中なのは知っていて来ている。むしろ、謹慎中なのは好都合。今川軍の虚をつけるからな」
「虚をつく? どういう意味だ?」
「今川軍は謹慎中の利家殿が参戦するとは思っていないから、虚をつけるという意味だ」
「……」
「利家殿に一ヶ月の戦に参戦してもらい、窮地に陥った織田軍を今川軍から救うべく奇襲をかけてほしい。そのお願いをしに来た」
「戦は好きだから参戦するはいいが、殿に許可をもらわんと」
「そのことだが、信長様を含めた味方全員に内密に動いてもらいたい。情報漏洩を防ぐために。それに、敵を欺くにはまずは味方からって言葉があるし」」
「……いいだろう」
利家は少し悩んだが、俺の提案を了承する。
俺が利家に桶狭間の戦いの策を伝えると、戦のイメージをしたのか利家はニヤケていた。
「織田家の勝利のために頼んだぞ」
「任せとけ。龍二。お前もしくじるなよ」
「おぅ!」
用件が済んだ俺たちは帰路につく。
◇◇◇
桶狭間の戦いから二日後、参戦した武将たちが清洲城に呼ばれた。
「戦力差で劣っていたこともあり、犠牲も大きかった。が、皆の奮戦のおかげで義元を討ち取ることが出来た。褒美を取らす」
「「「ありがとうございます」」」
信長は手柄をあげた武将に対して、金銭・茶器・土地などを与えた。
「龍二には、小太刀を二本と甲冑を与える」
「ありがとうございます。ですが、甲冑は遠慮したいと思います」
小太刀を貰うってことは、次からは戦に参戦しろってことか!
「……なぜだ?」
「機動力を活かしたいので、重くて動きづらくなる甲冑は俺には必要がありません」
「そうか。分かった。最後は利家だな。首級をあげた功績に免じて、謹慎中に参戦したことはお咎めなしとする」
「やったぁ」
利家が喜びの声を上げたのも束の間、信長が間髪入れずに喋る。
「最後まで聞け。戦への無断参戦はお咎めなしと言っただけで、謹慎は継続する」
「殿ォ、そりゃあないですよォ」
「利家よ。無断で参戦したことはなかったことにしてやるんだ。ありがたく思わんか」
「……へ~い」
「では、解散。ただし、龍二は残れ」
「……はい」
なぜか俺だけ残れと言われた。
何かやらかしたっけ?
俺以外の家臣たちが部屋から退出し、信長と二人っきりになると信長が話し出す。
「龍二よ。お前が言っていた時期に義元が攻めて来た。つまり、この世界は龍二が知っている世界。ならば、これから起こることが分かるはずだ」
「確かに、俺の知っている世界だと思われます。ですが、前にも言った通り全ての物事を把握しておりません」
「ああ、覚えている。だから聞きたいのは、桶狭間の戦いみたいな国の存続を揺るがすほどの戦が近々起こるのか知っておきたいだけだ」
桶狭間の戦いのあとに起こる信長の窮地って何だっけ?
「……すみません。今すぐには思い出せません」
俺は正直に報告した。
「すぐに思い出せんということは、しばらくは大きな戦は起きないってことだな」
「た、たぶん」
「何か思い出したら、すぐに報告しろ。もう帰っていいぞ」
「はい」
◇◇◇
桶狭間の戦いから一ヶ月後、信長の命令で沓掛城を攻め落とし、その一帯を攻略した。
そして月日は流れ、桶狭間の戦いから一年後の一五六一年五月。信長から、緊急招集がかかった。
招集された内容とは、信長と敵対関係にある隣国の大名の斎藤義龍が死去したという報告だった。