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5話 国民的美少女アイドルちゃんがタクシーで家まで送ってくれるらしい。




引き続きよろしくお願いします!


連投だ!



タクシーに乗ったのは、人生で二度目のことだった。


前回は『五人で乗ればバス代より安い』なんていう理由で、乗った、というより詰められた。


ゆったりと座席に座ることも、この独特の張り詰めた空気も、初めての体験だった。


……というか、隣に超人気アイドルが乗車している時点で、全てが未知すぎるわけだが。


「わぁ、懐かしいなぁ〜。ね、あそこの公園で、昔遊んだよね!」


佐久間さんは、あくまで昔と変わらぬ調子で話を振ってくれる。四年前の彼女が、そのまま身体だけ立派になったみたいだ。


「そ、そうだっけ?」

「うん、そうそう。翔くんがジャングルジムから落ちて頭打ってねーーーー」

「なんで覚えてるんだよ、そんなこと!」


あぁ、恥ずかしい、恥ずかしい。


運転手さんは、仕事に真剣だ。


平凡な高校生の失敗談に興味などないと分かっていても、やっぱりきまりが悪い。


車窓を流れる町並みに目をやり、俺は気を紛らわす。際限なく増えていくメーターを見るのも、ひどく怖かった。


兵庫県宝塚市。

駅前にはかの有名な歌劇場を有する、川に山に、自然豊かで閑静な街だ。


生まれてこの方過ごしてきた場所だというのに、すりガラスの奥からみると少し印象が違って見える。


長く感じた時間が終わり、ようやく目的地にたどり着く。


お金の払い方も分からず俺があたふたしているうち、なにやらチケットで支払いは済んでいた。


降り立ったのは、俺の住むボロアパートの前だ。お金はいいよ、と言われるが、そう簡単には肯けない。


が、お金があるわけでもない。

俺にこの家をあてがった両親は、ほとんど最低限の仕送りしかくれていなかった。


日々のやりくりで、高校生らしい人付き合いをこなすのに苦心しているわけだ。


「ごめん、ありがとう」

「気にしないでよー! ついで、だしね」


俺は深々頭を下げる。


そこで、仕事をしていなかった違和感が、遅れてやってきた。


…………ん、待てよ? 俺、佐久間さんに住所伝えた覚えはないんだが?


「なぁ佐久間さん、なんで俺の家知ってるんだ?」

「ん。なんでって、そりゃ知ってるよー」


彼女はさも当然のように言って、アパートの真下にある自販機で、飲み物を買い始める。


ど甘いエナジードリンクのあとに、彼女がボタンを押したのは、某メーカーの緑茶だ。


しゃがんで取り出して、後ろ手に俺の方へ突き出す。


そもそも美少女に下から覗かれると言う状況が、いけなかった。


そのうえ身体が反ったことにより、胸元が制服に圧迫されて、強調されていた。

綺麗な凹凸のついたラインが分かってしまう。


「翔くん、これ好きだったでしょ? 昔から、趣味がお年寄りみたいだったもの。みんながジュース買う中、お茶買ってたもんね」


そして、あろうことか無自覚だ。


「あれ、もしかして今は違ったかな?」

「い、いやぁ、まぁ……」


今も緑茶はすきだ。夏場でも急須は欠かせないほど、嗜んでいる。


だが、声にはならない。


「でも、お茶なら家でも飲めるでしょ♪ まぁご挨拶だと思って、受け取ってよ」


俺は髪をいじって変に気取ってしまいつつも、ありがたく頂戴はする。


俺が押し寄せてくる煩悩と戦っているうち、佐久間さんは、集合ポストの前まで移動していた。


うち一つの箱を、なにげなく開けた。

かと思えば、中からチラシを取り出したではないか。


ん? やっぱりおかしいぞ、これは?


「うちの住所知ってるのもそうだけど……。えっ、なんで佐久間さんがうちのチラシ取ってるんだ?」

「なんでって溜まると嫌じゃないかな? ピザ屋のクーポン以外は使わないしね」

「最近はクーポンくらいスマホで済むだろーって……、そうじゃない!」


その話じゃないの? と言わんばかりに、首を横に落とす佐久間さん。


「そもそも、ここに住んでるわけじゃないだろって話」

「あー、そっちね、えへへ。そっか、そこを説明してなきゃいけなかったね。少しも知らない感じなんだ?」


へらっと笑った佐久間さんは、肩にかけていた鞄をなにやら漁りだす。


彼女が小指の先に掛けて見せたのは、鍵のついたキーホルダーだ。

デフォルメされた三毛猫が可愛いらしいが、問題はそこじゃない。


俺の持っている鍵と、ほとんど同じ形をしている。


「私、今日からここに住むことになったの! 翔くんのお隣さんだね」


…………幻聴かと思った。


「ちなみに本当だよ? 昨日までは東京で大忙しで来られなかったんだ」


……マジだった。ポストにも、『湊川』の横にいつのまにか、『佐久間』の文字が記されている。


そういえば、隣は空き部屋だったっけ。

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