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43話 好事魔多し?



よろしくお願い申し上げます。




ーーこれでいい。


こうやって時に刺激的だったりもするけれど、平穏な日常を作っていければいい。




俺が、新しく編み始められた日々に、たしかな手応えを得はじめていた時だ。



その事件は、不意に起きてしまった。

その矢は、予想もしないところから飛んできたのだ。



「翔くん、どうかしたの? 靴も入れずに固まっちゃってさ」


ゴールデンウィーク前の、最終登校日のことだった。

いつものごとく早朝に学校へ来たため、昇降口には俺と佐久間さん以外の姿はない。


だからこそ、まずかった。少しのラグを不審に思われる。


「……いや、なんにもない」


俺は遅まきながら、取り繕う。


上履きを取り出すついで、一連の流れの中で、問題のブツをかばんへとしまった。


気怠げに振る舞って、上履きを地面へと放る。


「あー、……ちょっと眠気が襲ってきてさ」

「お眠かー、悪い子だね、早く寝ないからだよー」

「誰だよ、夜中までメッセージ送ってきてたのは」

「えへへ、私だったかも! スタンプ爆発してみたかったんだもん〜」

「スタンプ爆発って、一人で燃えてんじゃん、それ。スタンプ爆撃だよ、たしか」


二人、教室までの階段を上りながら、俺はカバンの中をちらりと確認する。


幻ではなく、そこにはピンク色の封筒が入っていた。それも、ハートのシールで留めてある。


誰が見ても疑いようなくそれは、ラブレターというやつかもしれなかった。





俺が佐久間さんにそれを見せなかったのには、理由があった。


きな臭い、そう感じたのだ。


俺は授業間の短い休みに、ピンク色の手紙をこっそりと持ち出す。

例の別棟トイレで、爽太郎に相談を持ちかけた。


「へぇ、翔もやるなぁ。モテるじゃねぇかよ〜。所帯持ちのくせに別の女子から校舎裏に呼び出されるなんてよ〜、あー、うらやましー」

「……やめろ、その棒読み。お前なら分かってるだろ、なにが起きてるのか」

「まぁ、事情は飲み込めたぜ。ちょっと前に流行ってたっつう、『嘘告白』だろうな、これ」


そう。


ラブレターをもらっておいて、ときめきもしない惨めな思考だが、俺もそれしか考えられなかった。


始業式の日、若狭先生が激怒していたあの悪戯問題だ。


それがまさか、今になって自分に降りかかってくるとは、これいかに。



手紙には、放課後会いたい、伝えたいことがある、などと記されていたが、

その差出人は、一年後輩の喋ったこともない女子からだった。


同じ中学で、その頃から遠目に恋焦がれていた…………らしい。



俺と違い、人脈の広い爽太郎に聞けば、結構やんちゃな子で通っているのだとか。


バスケ部所属らしく、二年生との繋がりもあるという。


「目的は、佐久間さんへの当てつけか……? 話題を攫われて、気に食わなかった二年生の誰かの差し金かも」


俺が適当に推理するのに、爽太郎が口をへの字に曲げながらも同じる。


「あり得るぜ、それ。女子は怖い奴もいるからなぁ、そのへん。調子乗ってるとか、乗ってないとか、派閥争いがひでぇらしい」

「…………ま、佐久間さんくらい高みに見える人間が出てきたら、そりゃあバランス崩れるよなぁ」


村人たちの争いの中に、急に王族が乗り込んでくるようなものだ。


あっけなく秩序は壊れてしまう。

誰が綺麗だとか、可愛いだとかのランクは、一挙に無用になる。


それを気に食わない者が出てくるのは、果たして想像がたやすかった。


本人ではなく俺を狙うあたりも、意地の悪い嫉妬感が滲み出ている。


昔、カバンを隠されるいじめがあったけれど、それとなにも本質は変わらない。


むしろ手が込んでいるだけ、タチが悪い。


「単純に、翔が羨ましいだけの男子の仕業かもしれねぇけど……。にしては陰湿だしな」


でも、と爽太郎はここでひっくり返す。


「本当に告白されるという線もあるかもしれないぜ」

「いや、ないだろうよ。…………たぶん」

「たぶん、止まりじゃね? なくはないから面倒なんだっての、この手の悪戯は。マジでいつのまにか惚れさせたんかもしらん」


そう、そうなのだ。


決めつけるのは簡単だ。


けれど、もし純粋な好意から勇気を振り絞っての行為だった場合は、ただ当人を傷つけてしまうことになりかねない。


「……とりあえず行くしかないか」

「おう、いいんじゃねーの。変な奴がいねぇか、俺が見張りにいってやるぜ」

「なぁ。ちょっと面白がってないか、爽太郎」

「…………分かっちまうかー。ほんのちょっとだぜ?」



俺は爽太郎と、有事の作戦を立てる。


そして、放課後を迎えたのだが……、そこで更に予期しないことが起きた。


「待ちきれなかったんで来ちゃいました〜」


たしか校舎裏で、と言う話だったのに、手紙の差出人は、教室までやってきたのだ。


二年は赤、一年は緑とリボンの色が違う。

そのため、後輩だというのは、すぐに分かった。


終礼が終わって、先生が去ったほんの少しあとのことだった。

前で、ずっと待ち構えていたらしい。


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