1章 8 フランシス・ランドルフ
外国語の授業でヒルダが教師に指名され、立って教科書を読んでいる。
そんなヒルダの様子を斜め後ろの席に座るフランシスがボーッと見つめていた。
ヒルダの席は窓際にある。太陽の光がヒルダの長い金の髪に当たってキラキラと光り輝き、まるで天使の様にフランシスの目には映っていた。しかし、そんなヒルダに見惚れているのはフランシスに限った事ではない。恐らくクラスの男子の殆どはヒルダの美貌の虜になっているだろう。
「はい、フィールズさん。そこまでで結構です。とても良い発音でしたね。」
外国語を教えている女教師が言うと、ヒルダはペコリと頭を下げて椅子に座った。
(やっぱりヒルダは綺麗だな・・・。)
フランシスは授業中だと言うのに、もう目線はヒルダに釘付けになっていた。
(それに・・・ヒルダは頭もいいんだよな・・。)
この学園はお金さえあれば平民でも入学できるのだが、それ以上に頭が良く無ければ入学する事が出来ない名門校であった。そしてヒルダは常に試験では上位をキープしている優秀な生徒である。本来ならクラスの人気者になれる存在のはずだが、ヒルダの性格が問題だった為、クラスのつまはじきにされている。
『氷の女王』
決して誰にも心を許さず、人と一定の距離を置いてしか付き合わない。そして・・・何よりヒルダは孤独を好んでいたのだ。
話しかけられても必要最低限の会話しかせず、何をするにも常に1人で行動していた。移動教室の時も、不自由な左脚を引きずりながら教科書や教材を持って歩き、人の助けを借りようとは決っしてしない。まるで人形のように感情が欠落したかのような冷たい表情・・・。
そんなヒルダを女子生徒達は当然のように存在を無視し、男子学生達は近付きたくても近づけない・・・高嶺の花のような存在になっていた。
その事がより一層女子学生達の恨みを買う事になり、ヒルダはますます孤立していってしまったのである。
(一度でいいから笑っている顔が見てみたいな・・・。)
「はい、次はフランシス・ランドルフさん、読んでください。」
(きっと笑えばすごく可愛いんだろうな・・・。)
「フランシスさん?聞こえていますか?」
(俺に笑いかけてくれないかな・・・。)
フランシスは昨日のカミラの妹の話を聞いてから、どうしてもその姿がヒルダと重なってしまい、いつも以上にヒルダの事が気になって仕方が無かった。その為、自分が指名されている事に、全く気付いていなかった。
「フランシスさん、返事をなさい。」
教室中がざわめき始めた。
「おい・・フランシス、お前名前呼ばれてるぞ・・・。」
先程からフランシスの後ろの席にいる男子学生がフランシスに声を掛けているのにすらフランシスは気付いていない。
そしてついに・・・。
「フランシス・ランドルフッ!」
「は、はいっ!」
突然強い口調で名前を呼ばれたフランシスは立ち上がった。すると教壇に立っている女教師がフランシスを睨み付けていた。
「ランドルフさん・・一体窓の外に何があったのですか?雪が珍しいのですか?」
すると途端に教室中に笑いが生まれた。そしてフランシスはヒルダの視線に気づいた。
(ヒルダッ!!)
ヒルダはフランシスを無表情のまま見つめたが、すぐに視線を逸らせてしまった。
「ほらッ!ランドルフさんっ!また窓を見ていましたねっ?!」
その時、授業が終わりを告げるチャイムが鳴り響き、女教師は教科書を閉じると言った。
「ランドルフさん・・・職員室へ今から来なさい。今日の授業はここまでです。」
そして教師が出て行くと、途端に教室中が騒ぎになる。
早速、フランシスの周囲には親友達が集まって来た。
「おい、お前・・・本当はヒルダに見惚れてたんだろう?」
親友のルイスが声を掛けてきた。
「うっ!な、なぜそれを・・!」
「ばっかだな~クラス中の皆、気付いてるぜ。最も本人はどう思っているか知らないけどな?」
もう一人の親友カインが自分の席で静かに読書をしているヒルダの後姿を見ながら言った。
「ほら、大体クラスの男子を見て見ろよ。みんな話をしながらも、こっそりヒルダの様子を伺っているの・・分かるだろう?」
幼馴染で学年1位の成績優秀者のマイクが言う。しかもマイクは顔もいい。
言われてみれば確かにクラス中の男子生徒がちらちらとヒルダに熱い視線を送っている。
(俺みたいな平凡な男じゃ無理だろうな・・。ヒルダの相手になりそうなのはマイクぐらいだ・・。)
フランシスは溜息をつくと立ち上がった。
「悪い、それじゃ・・・俺、職員室へ行って来るわ。」
「おう、行って来いや。」
「健闘を祈る。」
「頑張れよ〜。」
友人達に見送られ、職員室の女教師の元へ向かったフランシスはたっぷりお灸を据えられ、罰として教科書を1ページ丸々ノートに翻訳してくるように言われたのだった―。




