1章 6 雪の積もった朝
翌朝、ヒルダは目を覚ますとあまりにも部屋が寒い事に気付いた。
ベッドの上に掛けてあったカーディガンを羽織り、窓の外を見るとたった一晩で外は一面の銀世界に変わっていた。
「まあ・・・どうりで寒いはずだわ・・・。」
ヒルダは白い息を吐きながら、手をこすり合わせると部屋に置いてある薪ストーブにマッチで火をつけた。
そして制服に着がえるとリビングに向った。
「あ、おはようございます。ヒルダ様。」
リビングには既に着替えを済ませたカミラが朝食の準備していた。暖炉には既に火がくべてあり、室内は温められている。
「おはよう、カミラ。今朝の外はすごい雪ね。」
「ええ、そうですね。でも雪が降っていないだけマシですね。しかも太陽も出ておりますし。」
カミラは昨夜ヒルダが作ったシチューを温めながら返事をした。
「この分だと、雪かきをあまりしなくても済むかもしれないわね。」
「ええ、そう願いたい物です。さあ、ヒルダ様が作ったシチューも温まった事ですし・・朝食にしませんか?」
「そうね。食べましょう。」
そして2人は小さなテーブルに向かい合わせに座ると一緒に朝食を取り始めた—。
「カミラ。それじゃ学校に行って来るわね。」
コートを羽織り、スクールバッグを背中に背負ったヒルダが言った。
「ヒルダ様・・・雪が凄く積っておりますが、お1人で歩いて行けますか?上の階に住む姉に頼んで馬車を出してもらいましょうか?」
カミラが心配そうに声を掛けてきた。しかし、ヒルダは言った。
「いいえ、大丈夫よ。これ以上お姉さんに甘える訳にはいかないもの。ただでさえ、色々良くして貰っているのに。」
「ヒルダ様・・・。」
ヒルダはそう言うが、カミラはヒルダの事が心配でならなかった。
(まだ足の状態だって完全に良い訳では無いのに・・・。おまけにこの寒さではきっと傷跡も痛むはず・・。)
「大丈夫よ、カミラは心配性ね。ちゃんとスノーブーツも履いて行くし、早めに出るから大丈夫よ。」
ヒルダはマフラーを首に巻き、帽子をかぶってさらに手袋をはめると言った。
「それじゃ、カミラ。貴女も気を付けてお仕事に行ってきてね。」
「お気遣い、ありがとうございます。ヒルダ様。」
ヒルダは少しだけ笑みを浮かべると玄関を開けてアパートメントを出発した。
ヒルダが通う学校では学生の半分は寮生活をしている。そして残りの半分は自宅から通うか、ヒルダの様にアパートメントを借りている学生が占めている。
この学園の寮はとても立派なので当然の如く寮費が高い。年間で金貨20枚もかかるのだ。なので当然寮に住んでいる学生は一流貴族か、金持ちの子供達しか住んではいない。ヒルダもフィールズ家から年間、金貨50枚も貰っているので住めない事も無いのだが、高校卒業後は援助が打ち切られる。だからなるべく節約して暮らさなければならないし、何よりカミラが一緒にいる。寮には学生以外は入寮する事は出来ない。その為ヒルダは寮には入らなかったのだ。
「寒い・・それに足が痛むわ・・・。」
白い息を吐きながらヒルダは足元に注意しながら慎重に学校へ向けて歩き続けた。
メインストリートに出ると、沢山の馬車が大通りを雪を跳ね飛ばしながら走っている。ヒルダは馬車に気を付けながらなるべく道路の隅の方を歩いていると、突然すぐ側で馬車が止まり、声を掛けられた。
「あら・・・誰かと思えばヒルダさんじゃないの?良かったら私の馬車に乗らない?」
見上げるとそこには同じクラスで貴族の派閥に属さない、金持ちの娘のステラが顔をのぞかせた。彼女もヒルダ同様変わり者で通っており、何処の派閥にも属していなかった。そして前々からステラはヒルダと友達になりたいと思っていたのだった。
しかし、ヒルダはにべもなく断った。
「いいえ、結構よ。歩いて行くと決めていたから。」
だが、そのクールな所もステラは気に入っていた。
「いいから、乗りなさいよ。」
ステラは馬車のドアを開け、外に降りるとヒルダの腕を掴んだ。
「ちょ、ちょっと・・・何するの?」
ヒルダは抵抗したが、そのまま馬車に乗せられてしまった。
「馬車を出して。」
ステラが御者に命じると、馬車はすぐに走りだした—。




