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第8章 20 まるでデートのような…

 とても静かな空間だった。壁に掛けられた時計の音がカチコチと規則正しく音を刻んでいる。

ヒルダとノワールはお互いに無言で買った本を一心不乱に読んでいた。店内に響くのは時計の音と、本をめくる音だけだった。


やがて…


ボーン

ボーン

ボーン


振り子時計が鳴り響き、19時を示す時の音を奏でる。


「ああ…もうこんな時間か。ヒルダ、何処かで食事でもしないか?」


ノワールに声を掛けられ、ヒルダは顔を上げた。


「はい、そうですね。食事をして帰れば…丁度良い時間かもしれませんね」


「それじゃ行こうか?」


「はい」


2人は立ち上がると店主に頭を下げて古書店を出た。


「ノワール様」


店を出るとヒルダは白い息を吐きながら話しかけてきた。


「ん?何だ?」


ノワールは隣を歩くヒルダを見下ろす。


「今夜は…素敵な店に連れてきて下さってありがとうございます。色々な本を見ることが出来て良かったです」


そして笑みを浮かべる。


「そ、そうか?なら良かった」


ノワールは顔をそむけながら返事をする。ヒルダの笑顔に思わず顔が赤くなってしまい、それを見られたくなかったからだ。


「今夜も冷えるからな…。スープパスタ専門のレストランがあるんだが…良かったら行ってみないか?」


「パスタ料理の店ですか?私、好きなんです。行ってみたいです」


「よし、それじゃ行こうか」


「はい」


そして2人はゆっくりと夜の町を歩き始めた。足の不自由なヒルダに合わせて…。


「…」


歩きながらヒルダはそっと隣を歩く背の高いノワールを見上げた。


(不思議だわ…。今までの私は凄くノワール様が苦手だったのに何故か今はノワール様の隣は落ち着くわ…。きっと私と趣味が似ているせいね…)


ヒルダはノワールに対する気持ちが少しずつ変化していくことを感じ取っていた。

ノワールが自分のことを愛していると言う気持ちに気づくことも無く―。




****



 ノワールが連れてきた店はパスタ料理専門店で多くの客で賑わっていた。ヒルダとノワールはスープパスタを注文し、互いに本日読んだ本について語りながら食事を楽しんだ。そしてここでもノワールはヒルダの分も支払ったのだ。



「本当に申し訳ございません。全てノワール様にお金を支払わせてしまって…」


店を出たヒルダはノワールに申し訳なく、頭を下げた。


「別にそんなのは気にすることはない。それにこういう場合、男のほうがお金を払うのは当然だろう?ましてや俺のほうが年上なのだし」


「でもそれでは…」


言いかけたヒルダは口を閉ざした。


「何だ?」


ノワールはヒルダが何を言いかけたのか気になり、尋ねてみた。


「い、いえ。何でもありません」


ヒルダは危うく口が滑りそうになったのだ。


それではまるでデートみたいだと…。


(馬鹿ね。ノワール様にはそんな気持ちはさらさら無いというのに…まるでルドルフやお兄様と一緒にお出かけしていた時の様な気持ちになっていたなんて…)


「もうカミラも話が終わっているだろう。帰るのには頃合いじゃないのか?」


「ええ。そうですね」


「よし、それじゃバス停に行くか」


「はい」


そして2人はバス停に向かって歩き始めた―。

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