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第7章 21 ノワールの回想 2

「何って…見れば分かるだろう?本を読んでいるんだよ」


「本当?どんな本を読んでいるの?私も見たい」


「え…?」


ヒルダはノワールが返事をする前にちょこちょこと近付いて来るとノワールの隣にストンと座ってしまった。


「な、何だよ…」


ノワールはいきなり隣に座ってきたヒルダを見た。するとヒルダはノワールが読んでいる本を覗き込むと言った。


「うわぁ〜…文字ばかり。絵が無いわ」


「それはそうだろう。僕はもう7歳なんだから絵本なんか読まないんだよ」


「そうなの?私は絵本大好きよ。でもお兄ちゃんは7歳なのね。私は4歳よ」


「ふ〜ん…4歳か…」


「あのね、今日は私の誕生日なの」


「え…?誕生日…?ってことはヒルダかっ?!」


「あったり〜!すごいね、お兄ちゃん…よく私の名前、分かったわね?」


「それは当然さ。だって俺たちはヒルダの誕生祝いに呼ばれて来たんだから」


しかし、本当は来たくなかった…とはヒルダの前で言えなかった。


「そうなの?ありがとう、お兄ちゃん」


ヒルダはニッコリ笑った。それはまるで花が咲いたかのような笑顔でノワールはドキリとした。


「そ、そんな事より…いいのか?パーティーの主役がこんなところにいて」


「だって…つまんないんだもの…それより私も本を読む方が好きだわ」


「へぇ〜…僕と一緒だな」


いつの間にかノワールはヒルダと話をするのが楽しくなってきた。何よりまるで天使のように愛らしい少女なのだ。見ていると何故か胸がドキドキしてくる。つい、いい格好をしようとノワールは言った。


「ヒルダはどんな本が好きなんだ?」


「えっとね…可愛い絵が描いてある絵本が好き。私、お絵描きも好きだから」


「そうか…僕はいつか自分で物語を作って見たいと思ってるんだ…」


するとヒルダが言った。


「それじゃ、お兄ちゃんは大きくなったら本を書く人になるのね?」


「あ、ああ。もしなれればだけど…」


「それじゃ私は大きくなったら絵本を書く人になりたいわ」


その時―


「ヒルダーッ。何処にいるのー」


女性の声が聞こえた。


「あ、ママだわ!」


ヒルダはベンチから下りると言った。


「お兄ちゃんが大きくなって本を書いたら私にも読ませてね」


「う、うん。分かったよ」


「本当?それじゃ約束ね」


そしてヒルダは手を振ると、マーガレットの元へ走って行った―。


「ヒルダか…」


ノワールはポツリと呟いた。それは彼にとっての初恋であり…小説家を目指すきっかけとなった出来事であった―。




****


(ヒルダ…お前は覚えていないだろうが…あの時のお前の言葉が俺を小説家にしたんだぞ…?)


相変わらずヒルダは虚ろな瞳で馬車の窓から外を眺めている。その様子は酷く儚げで…このまま消えてしまうのではないかと思えるほどで、ノワールは不安になってきた。何かヒルダに話しかけてやらばければと思うものの、エドガーと違ってノワールは口下手だった。小説ではいくらでも言葉を紡ぎ出すことが出来るのに、それを口にすることが出来ない。


(俺も…エドガーのように社交的だったら良かったのに…)


ノワールには傷ついているヒルダにかける言葉が見つからなかった。


本当はヒルダのことを心から心配しているにも関わらず―。



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