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第7章 16 別れの手紙 1

「と、兎に角中へお入り下さい。今日はとても冷えますので」


ヒルダは青ざめているノワールが心配で部屋へ招き入れた。


「あ、ああ…すまない…」


ノワールはよろけながらも部屋の中へと入って来た。


「どうぞ、リビングへ案内致しますので…」


「…」


黙って頷くノワールを連れてリビングへ案内しながらヒルダは不安でたまらなかった。


(いつも冷静なノワール様があんな風になるなんて…それに、お兄様はもう多分二度とここには来ないって…?)




 リビングへ案内するとヒルダは椅子をすすめた。


「どうぞ掛けて下さい。今お茶を用意しますので」


するとノワールが言った。


「お茶なんてどうでもいい!ヒルダッ!座って話を聞いてくれ!」


いつも以上に強い口調のノワールだったが、ヒルダを見つめるその顔は苦しそうに歪んでいる。


「は、はい…」


ノワールの剣幕に驚きながらもヒルダは向かい側の椅子に座った。


「それで…エドガー様は二度とここには来ないと言うのは…?」


するとノワールが口を開いた。


「昨日…俺は出版社での打ち合わせが長引いて、帰宅したのは17時を過ぎていたんだ。アパートメントに戻るとエドガーの姿が無かった。…ひょっとするとまだヒルダと一緒にいるのだろうと思ったが、すぐに異変に気付いたんだ」


「異変…?」


「フックに掛けてあるはずのエドガーの防寒具が…全て無くなっていた。そこで部屋に行ってみると…エドガーの持ち物が全て…無くなっていた。服もカバンも、本も…」


「!」


ヒルダはその言葉に息を飲んだ。


「エドガーの机の上には俺あての手紙が残されていたんだ…」


ノワールはポケットから封筒を取り出した。


「…私が読んでも宜しいのですか?」


「ああ、ヒルダには…十分その資格がある…」


憔悴しきった様子でノワールが言った。


「は、拝見致します…」


ヒルダは震えながら手紙を封筒から取り出し、広げた…。



『すみません。どうしても救わなければならない女性が目の前に現れました。俺は彼女を見捨てる事が出来ません。とても気の毒な女性なのです。俺は彼女に負い目があります。深い謝罪の意を込めて…彼女と一緒に生きていく事を決心しました。兄さんには本当に申し訳なく思っています。折角自由の身にさせてくれたのに…ヒルダと共に生きていく道を切り開いてくれたのに、このような結果になってしまいお詫びのしようもありません。恐らく、もう二度とお会いする事は無いでしょう。お身体を大切にしてください。そして…どうかヒルダをよろしくお願い致します。エドガー』


「こ、これは…」


手紙を持つヒルダの手が震えている。心臓が激しく脈打ち、口から飛び出してしまいそうだった。


「…ヒルダ。それだけじゃない…。エドガーはヒルダにも手紙を残していたんだ…」


ノワールは未開封の白い封筒をヒルダの前に置いた。


その封筒にはこう、書かれていた。


『愛するヒルダへ』


と―。


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