第7章 13 穏やかな時間
ヒルダとエドガーは2人で喫茶店で向かい合わせに座り、飲み物を飲みながらポツポツと会話をしていた。昨日どんな料理を食べたか…最近読んでいる小説の話し等…。内容はどれも些細なものだったが、それでもエドガーはこの上ない幸せを感じていた。何故なら、こんな風に穏やかな時間をヒルダと2人で過ごせる日が来るとは思いもしていなかったからだ。
初めてロータスまでヒルダに会いに行った時はハリスの目を誤魔化して来ていたので、正直いつバレるのではないかと、ヒヤヒヤした気持ちで一杯だった。ヒルダの様子を伺ったらすぐにでも帰らなければと思っていた。
けれど、10年ぶり以上に再会した初恋の少女は息を飲むくらい美しく成長し、エドガーの心を鷲掴みにしていた。
その後…どうしようもない恋心を隠しながらヒルダと接するのは並大抵の事では無かった。いつかヒルダに恋心を打ち明けられる日が来ることを祈っていたが、そこに今度はルドルフの出現。エドガーは自分のヒルダに対する恋心を封じ込めざるを得なかった。
その次に訪れたのはルドルフとの悲しい別れ…。このときほどエドガーは自分の行動を悔いたことは無かった。自分さえ余計な行動をとっていなければ、ルドルフは狂ったグレースの母親に殺されることは無かったかも知れない…そう思うと、申し訳ない思いと、罪の意識に苛まされ、苦しむ日々が続いた。何より愛するルドルフを失ってしまったヒルダが気の毒でならなかった。
ヒルダに寄りそい、慰めているうちに再びどうしようもない恋心が再び湧き上がってきた時…ハリスに気付かれ、無理やりヒルダから引き離されてしまった時の悲しみは計り知れなかった。
そして今…ハリスの呪縛からエドガーは解き放たれ…周りに気兼ねすること無く、ヒルダとこうして2人で会うことが出来ている…不謹慎ながらエドガーはこのうえない幸せを感じ、熱を込めた瞳でじっとヒルダを見つめていた。
「あ、あの…エドガー様…」
不意にヒルダに声を掛けられ、エドガーは我に返った。
「どうかしたか?ヒルダ」
「い、いえ…あまり見つめられると…その、恥ずかしいのですが…」
ヒルダは頬を赤らめながら言う。
「あ…す、すまない」
エドガーは全く気付いていなかったのだ。自分がどれほどまでにヒルダを見つめていたかと言うことに。
「いえ…」
ヒルダは何と言って良いのか分からず、曖昧に返事をして俯く。そんなヒルダの姿を見てエドガーは思った。
(ヒルダ…ひょっとすると、俺の事を意識してくれているのだろうか…?)
自分の事を意識して見てくれるようになった…。それだけでエドガーの心の内が温かいもので満たされていくように感じていた。
ヒルダにはとっくに自分の気持ちは伝わっている。
(もし…今日、ヒルダに愛を告げれば…受け入れてくれるだろうか…?)
エドガーは自問自答するのだった―。




