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第7章 11 ノワールの本心

「ノ、ノワール様?な、何故ここに…?」


突然扉が開かれ、リゼは驚きのあまり立ち上がった。


「兄さん…っ!」


自分を呼ぶエドガーを見るとノワールは言った。


「エドガー。ヒルダを置いて、こんなところで何してるんだ?今日は2人でデートだったはずだろう?」


そしてこれみよがしにリゼを見た。


「デ、デート…」


リゼはショックを受けたような顔でノワールを見たが…気を取り直した様子で言った。


「ノワール様…見ての通り、今同じアシスタント同士でエドガーさんと打ち合わせをしていたのです。なので今日の予定は取りやめて頂くことにしました」


その言葉にノワールは反応した。


「何故君が答えるんだ?俺はエドガーに質問したのだが?」


「!ノ、ノワールさん。こんな言い方をしてはなんですが…私が誰か分かりますよね?」


「ああ。勿論知っている。君はこの出版社の社長の娘だろう?」


「ええ、よくおわかりですね」


「だが…所詮新人に過ぎない。おまけにエドガーは俺のアシスタントだ。君にはエドガーの予定を決める権利はなにもない。そう思うだろう?エドガー」


「え?」


不意に名前を呼ばれ、エドガーは戸惑った。だが、一刻も早くここを出てヒルダと過ごしたかった。


「そう…ですね」


エドガーは返事をする。


「エドガー様?!」


リゼはまさかエドガーがノワールに同意するとは思わなかった。


「いいのですか…?お2人とも。ノワール様の本を出版することが出来なくなっても構わないのですか?」


「そ、それは…」


エドガーが言葉をつまらせるとノワールが口を開いた。


「別に構わないさ」


「え?!」


「兄さん…っ!」


「実はこの出版社以外に別に出版社からオファーが来ているんだ。是非、我が出版社で本を出させて貰いたいってね。これでも俺はベストセラー作家だからな…逆に困るのはこの出版社じゃないのか?」


「!」


リゼの顔が青ざめる。その姿を一瞥するとノワールはエドガーを見た。


「エドガー、ヒルダはこの出版社の隣の喫茶店で待っている。すぐに迎えに行ってやるんだ」


「は、はい…!」


エドガーは立ち上がり、上着を掴むと急ぎ足で部屋を出ていった。その姿を悔しそうに見つめるリゼ。


「…これで分かっただろう?エドガーには愛する女性がいるんだ。もうこれ以上俺の弟につきまとうことはやめてもらおうか?」


「…っ!」


リゼは悔しそうにノワールを見つめながら言った。


「…いいのですか?」


「何が…?」


「ノワール様だって…あの女性の事を好きなのですよね?」


「…」


しかし、ノワールはそれに答えない。そんなノワールにリゼは言う。


「私だったら、自分の好きな人は絶対に他の人に譲りませんけど…貴方は違うのですね?」


「エドガーは俺の大切な弟だ。弟の幸せを誰よりも俺は願っているんでね。それじゃ早速打ち合わせを始めようか?」


ノワールは意味深な笑みを浮かべながらリゼを見た。



****


 一方、その頃ヒルダは1人喫茶店でノワールに言われた通り、エドガーが来るのを待っていた。先程、向けられたリゼの敵意を秘めた目が頭から離れなかった。そして、部屋を飛び出した時に一瞬見たエドガーの悲しげな顔が…。その顔を思い出すたびに胸が何故か締め付けられる。


(私は…お兄様を傷つけてしまったのだわ…お兄様の為なら私に出来ることは何でもしようと思っていたのに…)


そして思った。エドガーに会ったらすぐに謝ろうと―。




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