第7章 8 部外者
「エドガーさん、お待たせ致しました!」
勢いよく扉を開けて、部屋の中に入って来たリゼはエドガーの隣に座るヒルダを見て驚いた。
「だ、誰ですか?貴女は」
「あ、あの…私は…」
立ち上がり、挨拶しようとしたときエドガーは言った。
「彼女はヒルダ・フィールズです。俺の大切な人です」
「え?」
「な、何ですってっ?!」
ヒルダとリゼが同時に声を上げた。
「そ、そうなのですか?貴女はエドガーさんの大切な人なのですか?」
リゼはエドガーにではなく、ヒルダを問い詰めて来た。
「い、いえ。そうではありません。私とエドガー様は義理の兄妹なのですから」
「え?そうだったのですか?」
慌てて答えたヒルダの言葉にリゼは安堵したが、エドガーが口を開いた。
「けれど、もう俺はフィールズ家とは養子縁組の関係が切れたんだ。もうヒルダとは義理の兄妹ではないだろう?」
エドガーはヒルダを見つめながら言う。
「で、ですが…」
ヒルダはチラリとリゼを見た。リゼは口を堅く閉ざしたま、敵意を込めた目でヒルダを見ている。…その視線にヒルダは心当たりがあった。
ヒルダはもう気付いていた。リゼが何故自分を敵視しているかを…。
(同じだわ…あの時、グレースさんが私に向けたあの目と同じ…。きっとこの女性はお兄様の事が好きなのだわ…)
「ところで…エドガー様。一応この出版社は関係者以外出入り禁止にされているはずですが?この女性は部外者ですよね?」
リゼはヒルダ一瞬睨み付けると、エドガーに言った。
「え?そ、そうだったのですか?すみません。私…帰ります」
ヒルダが席を立った。
「そうですね。お引取り下さい、それでエドガー様…」
リゼがエドガーに声を掛けた時、エドガーも席を立った。
「それでは俺も行こう」
「え?で、ですが…」
ヒルダは戸惑った。まさかエドガー迄立ち上がるとは思わなかったのだ。
「何を言ってるのですか?エドガーさん。貴方は帰らないで下さい。まだ話が…」
慌てるリゼにエドガーは言葉を遮るかのように言った。
「俺も部外者ですから」
「え?何を仰っているのですか?貴方は部外者ではありませんよ?だってノワール様のアシスタントでいらっしゃるじゃありませんか」
「ですが、俺は単にそのノートを届けに来ただけです。兄のアシスタントではありますが、この出版社の関係者ではありません」
エドガーは冷たい目でリゼを見る。
「…っ!」
リゼはその冷たい視線にショックを受けた。まさか自分の好きな相手からそのような視線で見られるとは思わなかったからだ。しかし、リゼは中々気の強い人間であった。
「いいのですか…?私にそんな態度を取っても…ノワールさんが困った事になるかもしれませんよ?」
「何だって?」
エドガーの表情が険しくなる。まさか、リゼが脅迫して来るとは思わなかったのだ。
「今ここで帰られては打ち合わせが出来ませんよ?次回の本の出版に差し支えてしまったらどうするのですか?」
「…」
(何だ?彼女は…以前から図々しい性格で苦手だったが…まさか俺を脅迫しているのか?)
すると今まで黙っていたヒルダが口を開いた。
「あの…私はもう帰ります。どうかお二人で打ち合わせをして下さい」
「え?ヒルダ?」
「失礼します」
「ヒルダ、ちょっと待ってくれ!」
しかし、ヒルダはエドガーの静止も聞かず、逃げるように部屋を出ていった―。




