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第7章 3 明日の約束

「もう夜も遅いし、アパートメントまで送る」


「ですが…まだ人通りも沢山ありますし、アパートメントはメインストリートにあるから大丈夫ですよ?」


しかし、エドガーは首を振った。


「駄目だ、ヒルダは…人目を惹く容姿をしている。1人で歩いていて悪い男に声でも掛けられたらどうする?」


(お兄様は…余程私の事が心配なのね…)


ヒルダはクスリと笑うと言った。


「分かりました…ではお願いできますか?」


「ああ、勿論だ。それじゃ行こう」


そしてヒルダとエドガーは2人で一緒にアパートメントに向かって歩き始めた。




「ノワール様は…今、どうしているのですか?」


ヒルダは歩きながらエドガーに尋ねた。


「ああ、兄さんは大学が休みの間に書き溜めていた小説のアイデアを元に、執筆活動を続けると言ってるよ」


「そうですか、お忙しそうですね…」


「…ヒルダ。兄さんの事が…気になるのか?」


「え?」


どこか寂し気なエドガーの口調にヒルダは顔を上げて、ドキリとした。そこには悲し気な瞳でヒルダを見つめているエドガーの姿があったからだ。


「そ、それは…ノワール様には色々助けて頂きましたから…」


そう、ノワールは苦手な相手でもあったが、恩人でもあった。そして絵本作家を目指しているヒルダにとって、ベストセラー作家のノワールは憧れの存在でもあった。


「そうか…でも確かに、兄さんには感謝してもしきれないな…俺を救ってくれたのだから…」


ポツリというエドガーの言葉にヒルダは何も言えなかった。エドガーの苦しみを作ったのは自分だと思うと、何と声を掛ければよいか分からなかったからだ。


(そうよ…私はずっとお兄様が幸せになるまでは…贖罪していかなければならないのだわ…)


ヒルダは心の中で思った―。




****


 10分程夜の町を2人で歩き…ヒルダとエドガーはアパートメントに到着した。


「エドガー様、もしよければ…寄っていきませんか?お茶くらいならお出し出来ますが…」


しかし、エドガーは首を振った。


「いや、いいよ。ヒルダを送り届けたらそのまま帰ろうと思っていたから」


「ですが…」


ヒルダは白い息を吐きながらエドガーを見上げた。その時…。白い粉雪が空から舞い降りてきた。


「あ…」


「雪…だな…どうりで冷えると思った…」


「そうですね」


「ヒルダ…」


不意にエドガーがヒルダの名を呼ぶ。


「何でしょうか?」


「明日の予定はどうなっているんだ?」


「明日はアルバイトはお休みです。カミラがお仕事の日なので私が家事を担当します」


「そうなのか?明日は特にこれと言った予定はないんだな?」


エドガーの声が何処か嬉しそうだった。


「はい、そうですが?」


「それなら家事が一段落したら…一緒に何処かへ出かけないか?」


「お出かけ…ですか?何処へ…?」


するとエドガーは少しだけ頬を赤らめながら言う。


「それは…何処だって構わない。ヒルだと一緒に出かけられるなら…」


「…分かりました。いいですよ」


「本当に…いいのか?」


エドガーは目を見開いてヒルダを見る。


「ええ、勿論です」


「ありがとう、ヒルダ」


エドガーは満面の笑みを浮かべると尋ねてきた。


「それで…何時からなら大丈夫だろうか?」


ヒルダは少し考えると答えた。


「そうですね。11時くらいなら…大丈夫だと思います」


「わかった、なら11時に迎えに来るよ。それじゃ」


「はい、おやすみなさい」


「ああ、おやすみ」


そしてエドガーはヒルダに背を向けると小雪の舞う中、歩き去っていった―。

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