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第4章 10 久しぶりの学校

 馬車が学校に着くと、ルドルフはヒルダの車椅子を地面に降ろすと、広げて馬車に戻ってきた。


「ヒルダ様、失礼します。」


そして突然ヒルダを抱きかかえた。


「え?えええっ?!」


ヒルダはいきなりルドルフに抱きかかえられ、真っ赤になってしまった。するとルドルフが耳元で言う。


「ヒルダ様。動くと危ないのでじっとしていて下さいね。」


そして抱きかかえたまま馬車を降りると、車椅子に座らせた。


「あ、ありがとう・・ルドルフ・・。」


ヒルダは頬を染めて恥ずかし気に視線を逸らせながらルドルフに礼を言った。


「いいえ。これ位婚約者として当然ですよ。」


婚約者・・・その言葉はとても温かく、ヒルダの胸に染み入るように感じた。


「ルドルフ・・・。」


ヒルダがルドルフを見上げると、何故かルドルフは心配そうにヒルダを見つめた。


「ヒルダ様・・・1人で教室へ行けますか?何なら僕がついて・・。」


言いかけた所を慌ててヒルダは止めた。


「だ、駄目よ、ルドルフッ!この学校はね・・女子校だから男の人は入れないのよ。」



「え?そうだったのですか?そう言えば・・僕が今日から通う学校も・・・女の先生はいなかった気がしますね・・・。」


「ええ、そうなのよ。だからルドルフ。私の事は心配しないで。そ、それじゃ・・・また放課後・・ね。」


ヒルダは恥ずかしそうに手を振るとルドルフも手を振った。


「はい。また放課後・・・・ヒルダ様。」




 ルドルフと別れた後、ヒルダは車椅子を動かして校舎に向っていると、大勢の女生徒達に注目された。ヒルダはそれが恥ずかしくて堪らなかった。



(やっぱり車椅子に乗ってると・・・注目されちゃうわよね・・・。)


それに・・・。

何人かの女生徒達は彼女達の目は憐れみを持った目でヒルダを見ているのが分かった。そして視線が合うと、慌てたように顔を逸らす。

彼女達の誰もがヒルダはもう令息達に相手にされないのだろう・・・。そういう好奇心の目で見られているのがヒルダには手に取るように分かった。


(でも・・・気にしないわ。だって・・・私にはルドルフが付いているんだもの・・。)


すると、その時背後から元気よく声を掛けられた。


「おはよう!ヒルダッ!」


振り向くと親友のシャーリーだった。


「シャーリー。」


ヒルダは笑顔で振り向くと、シャーリーはヒルダの首に腕を巻き付け、抱きしめて来た。


「ど、どうしたの?シャーリー?」


ヒルダは驚いて声をかけると、シャーリーは言った。


「ヒルダ・・・お帰り・・・。ずっと・・・私待ってたんだから・・・。」


その声は涙声だった。


「うん・・ただいま。シャーリー。」


ヒルダは親友を抱きしめた—。




 今日の授業は歴史と数学、地理、科学に家庭科だった。ヒルダは学校に通っていない間も家庭教師の元で一生懸命勉強をしてきたので、遅れを取る事は無かった。

そして家庭科の授業では、貴族令嬢の嗜みとして刺繍が課題であった。

真っ白いハンカチに自分の好きなデザインを刺繍すると言う物だったが・・・。


 家庭科の授業はグループごとに机をくっつけて授業を受ける。ヒルダはシャーリーと同じ班で6人グループだった。


「私、このハンカチは婚約者に渡すつもりなの。だから彼の家紋を刺繍するわ。」


1人の女生徒が嬉しそうに言う。


「あら、私もそうするつもりよ。」


「私の婚約者は鷹が好きだから、鷹を刺繍するわ。」


等々、皆それぞれの婚約者自慢をしながら刺繍をしている。


「皆、自慢げで嫌ね。」


シャーリーはヒルダの耳元で囁き、ヒルダはクスリと笑った。


するとその様子を見た1人の女生徒が言った。


「あら?ヒルダさん・・何がおかしいのかしら?ところでヒルダさんは何を刺繍しているの?」


「え、ええ・・私はお父様に・・イニシャルと鷲の刺繍をしているの。」


本当はルドルフにプレゼントしたいと思ったが、それはクリスマスにと考え、父に感謝を込めてヒルダは刺繍をしていたのだ。


「まあ・・・やっぱりね・・。」


その女性とは意地悪そうに笑った。


「ちょっと、ミランダさん。やっぱりってどういう意味かしら?」


シャーリーが少女を睨み付けた。


「あら、だってヒルダさんはもう殿方には二度とプレゼントを渡せるチャンスを無くしてしまったでしょう・・・お気の毒に・・。」


ミランダと呼ばれた女生徒はヒルダを憐れみの目で見た。


「ちょ、ちょっと!ミランダさんっ!!」


シャーリーが声を荒げた時、そこへ家庭科の先生が現れた。


「貴女方っ!何を授業中に騒いでいるのですか?!罰として来週までにもう1枚ハンカチの刺繍の課題を提出して頂きますっ!」


「ええっ?!」


「そ、そんな・・!」


シャーリーとミランダは情けない声をあげるのだった—。


 




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