第6章 3 ノワールの追求
「俺はノワール。ヒルダとは同じ大学で恋人同士なんだ。俺が彼女をここまで連れて来たんだよ」
ノワールはヒルダの肩を抱き寄せるとトビアスに言った。
「「な、何だってっ?!」」
エドガーとトビアスが同時に声を上げた。
「あ、あの…」
ヒルダが困っていると、ノワールはヒルダの耳元にで囁いた。
「あの男はお前に言い寄ろうとしているぞ?迷惑なんじゃないか?」
「!」
その言葉に一瞬驚くもヒルダは頷く。
「そうか、なら俺に話を合わせろ」
「は、はい…」
その言葉にノワールは満足そうに笑みを浮かべると言った。
「失礼するよ。2人きりで話がしたいから」
ノワールはヒルダの肩を抱きかかえたまま連れ去っていく。去り際ヒルダはエドガーを見ると、真っ青な顔でヒルダを見つめていた。
(お兄様…)
「行こう、ヒルダ」
ノワールはエドガーを気にかけることもせずに連れ去って行ってしまった。
「「…」」
その場に取り残されてしまったトビアスとエドガー。2人はヒルダとノワールが立ち去っていく後ろ姿を黙って見つめていたが…やがてトビアスが口を開いた。
「な、何だよ…エドガー。ヒルダには…恋人がいたんじゃないかよ…。でも、それにしても…あの男、お前に似ていたよな?」
「…」
しかし、エドガーはそれに答えること無く、歯を食いしばって拳を握りしめていた。
****
「あ、あの…ノワール様…」
ノワールはヒルダを連れてパーティー会場の角に連れて行くとようやく足を止めるとヒルダを見た。
「何だ?」
「何故先程のような真似をされたのですか?」
「先程っていうのは…?」
「で、ですから…私のことをまるで…」
そこから先の言葉をヒルダは口に出すことが出来ず、俯く。
「まるで恋人のように振る舞った事を言っているのか?」
「ええ、そうです…」
「だが、あのままにしておいたらお前はあの男に付き合わなければいけなかったぞ?」
「でも…何もお兄様の前であんな…」
「エドガーの事なら気にするな。後で俺から説明しておく」
「はい。お願いします」
ヒルダが頭を下げると、ノワールがフッと笑みを浮かべた。
「心配しているのか?エドガーの事を…」
「当然です。大切な…お兄様ですから」
「だが…本当の兄では無いだろう?エドガーは俺の弟だしな」
「分かっていますが…それでもお兄様は私にとって大切な方です。恋人を…失った時…支えてくれましたから…」
「それはお前の事が好きだからだろう?妹としてではなく、1人の男として…」
「!」
「ヒルダはエドガーの事をどう思っているんだ?」
「わ、私は…」
俯くヒルダにエドガーは言った。
「もし…エドガーの事を男としてではなく、兄としてしか見れないなら中途半端な愛情を持つな。希望を持たせるような事をするんじゃない。その方が…かえって残酷だ」
「ノワール様…」
(困ったわ…。お兄様の事は好きだけど、一人の男の人として見た事など一度も無いのに…)
ヒルダは返事に困り、俯いた―。




