第4章 7 グレースの友人達の事情
グレースの家は平民だが裕福な商家の金持ちである。家もかなり大きく、立派な造りりをしていた。
「ほんと・・・ヒルダの家程じゃないけどグレースの家も大きいよな。」
イワンが感心したように言う。
（ああ・・だからグレースは我儘なんだよな。お金持ちで買いたい物は何でも買って貰って・・大体仲間内で高等学校に行くのはグレースだけなんだもなあ。）
はっきり言ってしまえばコリンはグレースが好きでは無かった。気は強いし、金持ちであるところをひけらかすようなところもある。だがそれでもコリンがグレースの友人として接しているのは、全てはグレースが金持ちの娘だからであった。
コリンの家は、仲間内で一番貧しかった。貧しいのに兄弟の数は多く、彼はいつもお腹をすかして飢えていた。だからグレースを利用した。彼女にちょっと媚を売れば今迄食べた事も無いような高級なお菓子を貰えたり、食べ物を分けて貰える事があるからだ。
しかし、コリンに限らず、ノラやイワンも打算的な考えがあってグレースの友人になっているだけだったのかもしれない。
「グレース！いるんでしょうっ！開けてよっ！」
ノラはグレースの家のドアをドンドン叩いている。するとドアがガチャリと開けられ、中から不機嫌そうなグレースが顔を覗かせた。
「・・・なによ・・。私・・今あなた達と顔を合わす気分じゃないんだけど・・？」
その言葉に流石のノラもカチンときた。
「何言ってるのよっ！グレースッ！貴女どれだけ学校休む気なのよっ？！ルドルフが明後日からヒルダと同じ学校へ転校する事知ってるの？！」
「えっ？！な・・・何よ・・その話は・・・。」
グレースの顔が青ざめた。
「両親は今お店の方へ行ってるの。誰も家にはいないから・・・取りあえず入って。」
グレースは3人を家の中に招いた。
居間に通されたコリンは部屋の中をグルリと見渡した。
（全く相変わらずの成金主義丸出しの部屋で悪趣味だよな・・・。）
床にはトラの毛皮のカーペットが敷かれ、部屋の中身は巨大な東洋の大きな壺が幾つも置かれている。壁には絵が飾られており、以前グレースから聞いた話によるとその絵画は有名な画家が描いたもので絵を1枚買うだけで、家が買える程の値段だと自慢げに話していたが、定かではない。
グレースは菓子が一杯詰まった大きな箱を持ってきて、無造作に3人が座るテーブルの前にドンと置くと言った。
「適当に好きなだけ食べていいわよ。今お茶入れて来るから。」
そう言って再び席を立った。
「うわああ〜うっまそうっ！」
イワンはカラフルなチョコスプレーが降りかけてあるカップケーキに手を伸ばすと美味しそうに食べ始めた。ノラはマカロンに手を伸ばし、コリンはワッフルに手を伸ばし、口いっぱいに頬張った。
これだから、この3人はグレースの友人をやめる事が出来ずにいた。周囲から見れば餌付けされているようにも見られるかもしれないが、それでも彼等は食べ物に飢えていたのだった。
そこへ4人分の紅茶をお盆に乗せてグレースが戻ってきた。そして一瞬ガツガツとお菓子に手を伸ばして食べ続ける3人の友人を軽蔑の目でチラリと見ながら言った。
「それで？ここへわざわざ来たのはお菓子を食べる為じゃないでしょうね？何か大事な話が合って来たのでしょう？」
足を組みながらグレースは言った。
グレースのまるで女王様のような態度を知るのは、この3人だけであった。そしてルドルフを始め、他のクラスメイトや先生達はグレースの裏の姿を誰も知らずにいたのだった—。
