第4章 9 エドガーとの再会
(お兄様…!)
ヒルダは震えながら芝生を踏みしめ、エドガーの元へ近づいた時…。
「ん?」
エドガーが気配を感じて振り向いた。その途端、驚愕で目を見開く。
「ヒ、ヒルダ…ッ!な、何故ここに…っ?!」
「お、お兄様…」
すると、エドガーは少しだけヒルダに近付くと言った。
「ヒルダ、何故こんなところに来たんだ?い、いや…そもそもどうしてここに来れたんだ?」
エドガーはすっかり混乱して髪をクシャリとかきあげた。その様子から、エドガーはやはり何も知らなかったと言う事が分った。
「お兄様…やっぱり何もノワール様から聞かされていなかったのですね?」
「え?兄さん…?兄さんがどうしたんだ?」
「私…ノワール様と同じ大学で、しかも同じゼミに入っているのです」
「な、何だって…?そうだったのか?ちっとも知らなかった…」
「私、大学に入学してすぐに…お兄様そっくりの方を見かけて、思わず駆け寄ったんです。そうしたら…お兄様では無く、ノワール様でした。ノワール様は私の名前からすぐに私が誰か分ったみたいです」
「そうか…ノワール兄さんはヒルダの写真を見たことがあったからな。それにしても…ヒルダは俺とノワール兄さんを間違えて…声を掛けたのか?」
そう言うエドガーの頬は少し赤く…笑みをたたえていた。その表情を見た時にヒルダの脳裏にノワールの言葉が脳裏に浮かぶ。
『…どれだけ自分がエドガーに愛されているのか、まだヒルダは分っていないようだな』
(お兄様…まさか、本当にまだ私の事を…?)
するとヒルダの視線に気付いたエドガーが言った。
「兄さんが何と言ってヒルダをここに連れて来たのかは分からないが…すぐに帰った方がいい。父さん達は皆…フィールズ家を恨んでいるんだよ。…俺のせいで…」
エドガーが悲しげな顔でヒルダを見た。
「はい、知っています。ノワール様から全て事情は伺っていますから…」
「何だって?兄さんから全て聞いて…それを承知でここにやってきたのか?拒絶すれば良かったのに…ああ見えても兄さんは優しい人だ。人が嫌がることはしない人間だ」
(そんな、帰った方がいいと言われても…)
ヒルダはエドガーへの罪滅ぼしの為に、エドガーの家族に自分がどのように思われているか承知の上でここへやってきたのだ。
「お兄様…私はお兄様に謝りたくてここへ来ました。私が…フィールズ家がハミルトン家から憎まれているのは知っています」
「ヒ、ヒルダ…まさか俺の為に…ここまで来たのか…?」
エドガーは声を震わせながらヒルダを見た。
「はい、そうです。…恐らく、もう『カウベリー』では…お兄様と2人でお話をする場も無いだろうと思ったからです」
そしてヒルダは頭を下げると言った。
「お兄様、本当に申し訳ございませんでした。お兄様は大学へ行きたかったはずなのに…大学を諦め、『カウベリー』の為に…結婚までされて…。なのに私は大学へ進学してしまいました。私はお兄様の人生を踏み台にして」
そこまで言いかけた時、背後でノワールの声が聞こえた。
「エドガー。残りのブルーベリーは俺が採取しておくからヒルダと一緒に買い物に行って来てくれないか?足りない食材があるんだ」
言いながらノワールは近付いて来るとヒルダにメモ紙を手渡しながら素早くヒルダの耳元に囁いた。
「エドガーの気持ちを踏みにじるなよ」
「!」
ヒルダは驚いてノワールを見た。
「兄さん…ヒルダに一体何を…」
「ほら、早く買い出しへ行って来てくれ。皆待っているから」
ノワールの言葉にヒルダは頷いた。
「はい、分りました。行きましょう、お兄様」
ヒルダはエドガーを見つめると言った―。




