第2章 10 ルドルフの手紙
ヒルダが部屋で荷物整理をしているとノックの音が聞こえた。
「ヒルダ。今少し良いか?」
それは父、ハリスの声であった。
「はい、どうぞ」
すると扉が開かれ、ハリスが現れた。左手には束ねられた手紙を持っている。
「ヒルダ、実はマルコから手紙を預かっているのだ」
「え…?マルコさんから…?」
ヒルダはその言葉にドキリとした。
「この手紙は…ルドルフがヒルダに宛てて書いた手紙らしいが…お前がロータスに言った後に書かれた手紙らしいから少し古いのだが、まだ誰も目を通していない。何しろヒルダに宛てた手紙だからな」
「ル、ルドルフが…私に‥?」
ルドルフからの手紙…その言葉を聞くだけで、ヒルダの胸に熱いものが込み上げて来る。
「これだよ」
ハリスはヒルダに手紙を手渡した。ヒルダは手紙の束を受け取ると穴が空きそうなほど見つめ…やがて顔を上げると言った。
「あの…部屋でゆっくり読ませて頂いてもいいですか?」
「あ、ああ。構わないよ。その手紙はお前の物だからな」
「そうですか。ありがとうございます…」
ヒルダは手紙を胸に抱きしめると言った。
「それじゃ、私は出て行くよ」
ハリスはそれだけ告げるとヒルダの部屋を後にすると思った。
(多分…ヒルダは夕食の席まで姿を現さないだろう)
と―。
****
ヒルダは机に向かうと、じっとルドルフからの手紙を見つめていた。
(この手紙は…私がルドルフに黙ってカミラと2人でロータスへ行った後に書かれた手紙…)
ひょっとすると自分に対するルドルフの怒りや…恨み言の様な事が書かれているのではないだろうか?でも、それでも少しも構わないとヒルダは思った。何故ならヒルダとルドルフは…互いの気持ちを知り…心も身体も愛し合った仲なのだから。
「ルドルフ…貴方からの手紙…読ませてね」
ヒルダはそっと呟くと、ペーパーナイフで風を切り、手紙を開封した。
ルドルフは几帳面な性格だったので、古い年代順に手紙は並べられていた。ヒルダは最も古い手紙から読み始める事にした。
2つ折りにされた手紙を広げ、最初に飛び込んできた文字を目にした時、ヒルダの両目から涙があふれ出した。
そこにはこう、書かれていたからだ。
『ヒルダ様、僕は貴女を愛しています』
と―。
****
あれから何時間が過ぎた。太陽は日が沈みかけ、空はオレンジ色に変わっていた。ヒルダの部屋も太陽の光によってオレンジ色に染まっている、机に向かい目を真っ赤にさせたヒルダは今もルドルフの手紙と向き合っていた。
ルドルフからの手紙は全部で10通あった。そのどれもがヒルダに対する自分の思いを告げていた。いかに自分はヒルダの事を愛しているか、自分の傍からいなくなってしまい…どれ程辛く、悲しい気持ちでいるかが綴られていた。
(知らなかったわ…ルドルフが‥これほどまでに私の事を愛してくれていたなんて‥てっきり私だけが一方的にルドルフの事を好きなのだとばかり思っていたのに‥)
そして、ヒルダは知った。ルドルフが何故勉強を頑張っていたかを。
『ヒルダ様、僕は医者になって…必ず貴女の足を元通りにしてあげます。だから…どうか、僕の気持ちを受け入れて下さい。僕は貴女を愛しています』
一番最後の手紙にはこう書かれていた。
「ル、ルドルフ…わ、私も…今でも貴方を‥貴方だけを愛している…」
そしてヒルダはいつまでも手紙を抱きしめたまま涙を流し続けた―。




