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第5章 17 それぞれのクリスマス 14

 その頃、ヒルダはマーガレットの部屋にいた。ロッキングチェアに揺られて暖炉の前に座る母と娘。2人は少しだけワインの入ったホットアップルティーを飲んでいた。


「フフ…どう?ヒルダ。美味しい?」


マーガレットはヒルダに尋ねた。


「はい、ワインを飲んだのは…初めてです。甘くて美味しいですね」


「ヒルダは17歳になるのにまだお酒を口にした事がなかったのね。」


ヒルダ達の住む国では法律上、16歳から飲酒が出来るようになっていた。ただし、アルコール度数は5%未満と決められていた。


「はい、 カミラも飲んだことありませんし」


「そうね。今夜だけは特別ね。クリスマスだから」


そしてマーガレットは窓の外を見るとポツリと言った。


「…大分雪が降ってきたわね。お父様は今夜は帰らないかもしれないわ」


「え?お父様は私と一緒に帰ってきましたよ?」


するとマーガレットは言った。


「お父様はね、貴女を部屋まで送った後はアンナ様のお屋敷へ向かったのよ。今夜は大事な発表がある日だから」


「知りませんでした…大事な発表とは何ですか?」


「ええ、来年アンナ様が16歳になったら結婚するという報告よ」


「まぁ、そうなのですね?それはお目出度い話ですね」


ヒルダはワイン入りアップルティーをコクリと飲むと言った。


「ええ…そうね…」


マーガレットはヒルダを見た。愛するルドルフを失ったヒルダにこの先、また別に愛する男性が現れるのだろうかと。


(ヒルダ…ルドルフはこの世を去ってしまったけど…私はやはり貴女には結婚してもらって幸せになって欲しい…)


それがマーガレットの願いだった―。




****


 アンナの邸宅―


クリスマスのパーティーはお開きになり、参加した貴族たちは全員馬車に乗って帰って行った。残された客人はハリスとエドガーのみだった。

エドガーは客室の1つをあてがわれていた。

窓から降り積もる雪を眺めていたエドガーの部屋のドアがノックされた。


コンコン


「はい?」


エドガーがドアの方を振り向いて返事をすると扉の外でハリスの声がした。


「エドガー。ちょっといいか?」


「父上!」


エドガーはすぐに扉に向かい、ドアを開けた。そこには2つのワイングラスとワインの瓶を抱えたハリスが立っていた。


「どうだ?1杯飲まないか」


「はい…どうぞ」


エドガーは部屋へハリスを招き入れると、部屋に置かれたカウチソファを勧めた。


「どうぞ掛けて下さい」


「ああ、エドガーお前も座りなさい」


「はい」


丸い大理石のテーブルを挟んで、エドガーもハリスの向かい側に座った。


ドン


ハリスはワインの瓶をテーブルの上におくと、ワインオープナーをコルク栓に押し当てた。


ポンッ!


小気味よい音を立ててワインの栓が開き、芳醇な香りが部屋に漂う。


トクトクトクトク…


ハリスはワインの瓶を傾けてエドガーの前に置かれたグラスに注ぐと、自分のグラスにも注ぎ入れた。


「エドガー、飲もう」


ハリスはワイングラスを手に持った。


「はい」


エドガーもグラスを持った。


「「乾杯」」


カチン


2人はグラスを打ち付けると、ワインを口にした。


「フウ〜…」


コトンとグラスを置くとハリスは言った。


「…すまないな、エドガー」


「え…?」


ワインを口にしていたエドガーは怪訝そうな表情を顔に浮かべた。


「エドガー。お前は…ヒルダの事が好きなのだろう?」


「!」


エドガーは肩をビクリとさせた。


(そ、そんな…!やはり父にはバレていたのか…?!)


「だがな、お前とヒルダの仲を…認めるわけにはいかないのだ」


ハリスは静かに語る。


「ここ、『カウベリー』は貧しい町だ。少しでも領民たちの生活を向上させるには…有力な力を持つ貴族の協力が必要なのだ。お前は頭が良いから分かるな?」


「はい…」


「ヒルダは…足を怪我した時から有力貴族の元へ嫁がせるのはもう無理だった。おまけにあんな事件があって…それならせめて好いた相手と結婚をさせてやろうと思ったが…ルドルフは…死んでしまった。だからヒルダを貰ってくれて、優しくしてくれる相手ならどんな相手でも認めようと思っている。だがな、それでもエドガー、お前だけは駄目だ。お前には…アンナ嬢と結婚してもらう。いいな?聞き入れてくれ」


ハリスは頭を下げた。


「そんな、父上。頭を上げて下さい。もとより…俺はヒルダに気持ちを告げる気はありません。何よりヒルダは…俺の事を兄としてしか見てはくれないので…」


エドガーは寂しげに答えるのだった―。



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