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第5章 10 それぞれのクリスマス 6

  クリスマス礼拝が無事終了し、カウベリーの人々は受付の前を通りぞろぞろと扉から出て行く。そしてその扉の傍らに腕組みをして人々を見つめながら立っているのは他でもない、エドガーであった。


「エドガー様、帰らないのですか?」


「ああ、もう少しだけ…」


先程からこの会話の繰り返しである。アンナは溜息をついた。本当なら今夜はアンナの屋敷でクリスマスを祝うパーティーに参加する事になっている。今夜だけは時計の針が12時を過ぎても夜更かししてよいと言われている。アンナは一刻も早くエドガーと屋敷に帰りたいのに、なぜかエドガーは険しい顔をして扉の前に立っているのだ。


「…」


「こんばんは、エドガー様」


「それでは失礼致します。」


「とても良いクリスマス礼拝でした」


扉の前に次期領主となるエドガーがずっと立っているものだから領民達はすっかり縮み上がり、恐縮しながら一人一人エドガーに挨拶をして扉から出て行く。エドガーも彼らの挨拶に返事をしながら、ある人物を待っていたのだ。


(あの特徴のある声…忘れるものか。ヒルダの事を人を狂わせると言うなんて…!)


エドガーの顔がますます険しくなる。そんなエドガーをアンナは不安な気持ちで見つめていた。


「エドガー様、ここで一体何をされているのですか?」


アンナが尋ねたその時、1人の若い男がエドガーに挨拶をした。


「エドガー様、失礼します」


「!」


エドガーはその声に反応し、顔を上げた。


「お、お前…」


「え?俺が何か…?」


(間違いない…!この声…あの時の男の声だ!)


エドガーにはすぐに分かった。今自分の目の前にいる男がヒルダに対してひどい言葉を言った人物だという事を。


「おい、お前…名を何という?」


エドガーは今迄見せたことも無いくらい、全身に怒りをみなぎらせて目の前の男に尋ねた。


「え?お、俺…ですか?ニールと言いますが…」


顔にそばかすのある赤毛の若い男はたじろぎながらも答える。周囲ではエドガーのただごとならぬ雰囲気にざわめいた。


「ェ、エドガー様…?」


一方のアンナも初めて見るエドガーの姿に怯えていた。


(エドガー様…一体どうしてしまったの?!)


エドガーは周囲のざわめきがうるさく感じ、ニールに言った。


「ちょっとついて来い。お前に大事な話がある」


「え、え?だ、大事な話って…?」


「ここはひと目につくからな」


それは有無を言わさないほどの強い口調だった。


「わ、分かりましたよ…」


次期領主にはとても逆らえない。ニールはわけもわからないまま先に立って歩き出したエドガーの後をついていく。


「あ!エドガー様!どちらへ行かれるのですかっ?!」


アンナは慌てて声を掛けるが、エドガーはその声が全く耳に入っていないようだった。


(エドガー様っ!)


そんなエドガーの様子を背後で見ていた領民たちがざわめいていた。


「やはりニールの言った言葉が聞こえていたんだろうな…」


「よほどヒルダ様が大切なのだろう…」


「実の兄妹でもないのに…」


(え…?!)


その言葉にアンナは耳を疑った。アンナはエドガーが養子である事を知らないのだ。


「そ、そうだわ!エドガー様は何処にっ?!」


アンナは教会の外に飛び出すと、松明で明るく照らされている教会の周囲を見渡した時―。


「おい!お前…一体どういうつもりだ?!何故あんな事を言った!」


エドガーの怒声が教会の裏手から聞こえてきた―。




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