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第5章 7 それぞれのクリスマス 3

午後8時―


コンコン


ヒルダの部屋のドアがノックされた。


「ヒルダ、準備は出来たか?」


扉の外でエドガーの声が聞こえた。


「はい、お兄様。どうぞ」


カチャリ…


扉を開けると、そこにはダークブルーの足首まで丈のあるロングワンピースを着用したヒルダがドレッサーの前に座っていた。


「あ…すまない。まだ準備が終わっていなかったのか?」


エドガーは黒いスーツに身を包み、手にはコートを持っている。


「それじゃ…クリスマス礼拝に行こうか?」


「はい、お兄様」


ヒルダはコート掛けに掛けていたワインレッド色のマントを羽織ると、立てかけて置いた杖を手に取り、立ち上がった。


「ヒルダ、今夜は雪で外は積もっているんだ。杖は置いて行った方がいいと思う。俺が手を貸してやるから」


「ですが…」


ヒルダは言いよどんだ。


「どうした?」


いつもなら素直にエスコートされるのに、今夜に限ってヒルダはすぐに返事をしない。少しためらった後ヒルダは言った。


「お兄様…今夜はアンナ様もご一緒なのです。どうぞエスコートならアンナ様にしてさしあげて下さい」


「ヒルダ…ッ!」


その時、背後でハリスの声がした。


「ああ、そうだ。ヒルダの言う通りだ」


「父上…っ!」


エドガーは驚いた。いつの間にかそこにはコートを着用したハリスが立っていた。


「お父様」


ハリスはエドガーの傍を通り抜けるとヒルダの前に歩み寄り、立ち止まった。


「ヒルダ、私がお前をエスコートしよう」


ハリスは右手を差し出した。


「ありがとうございます」


ヒルダがハリスの手を取り、それを見たエドガーは尋ねた。


「父上…今夜はクリスマス礼拝に行かれないのでは?母上が心配だからと仰っておりませんでしたか?」


「ああ。その事だが、マーガレットがヒルダに付き添ってやってくれと頼んできたのだ。考えてみれば‥ヒルダは辛い事があったばかりだからな。私が付き添っていた方が良いだろう?それよりエドガー。婚約者のアンナ嬢が客室で待っておられる。早く行ってあげなさい」


普段、アンナの事を『婚約者』と滅多に口に出さないハリスが何所か意味深に取って付けたかの様に言うのをエドガーは聞き逃さなかった。


(父上…何故ヒルダの前でわざわざ『婚約者』を強調するかのような言い方を…?)


「わ、分りました。では私はアンナ嬢を迎えに行って参ります」


エドガーは頭を下げると、退室しようと背を向けた時にハリスが背後から声を掛けた。


「エドガー」


「はい」


エドガーが振り向くと、そこにはヒルダの手を握りしめて、肩に手を置いたハリスがじっとエドガーを見つめている。


「アンナ嬢に失礼の無い様にな。彼女は…フィールズ家にとって、大切なお方なのだから」


何所か含みを持たせるかのような言い方にエドガーはドキリとした。


「は、はい。勿論わかっております」


エドガーは一礼すると、足早に部屋を出てアンナのいる客室へと向かった。


(父は…ひょっとすると俺がヒルダに抱いている気持ちに気付いているのだろうか?だからわざとヒルダの前であんな言い方を…!やっぱり…俺はヒルダへの思いを封印しなくてはならないのか…?始めて会った時からずっと恋をしていたのに…!)



 気付けば、そこはもう客室だった。エドガーは深呼吸すると扉をノックした。


コンコン


「アンナ嬢、いらっしゃいますか?エドガーです」


すると…。


ガチャリ


扉が開かれ、アンナが飛び出して来た。


「エドガー様!お会いしたかったわ!」


そしてエドガーの胸に飛び込んできた。


「ヒルダ様が喪中だから、私ずっと遠慮してお屋敷に来るのを遠慮していたのです。だから本日のクリスマス礼拝、お誘いして頂けてとても嬉しいです!」


そして無邪気に抱き着いて来る。


「アンナ嬢…」


本当はエドガーはアンナを誘うつもりは無かった。ヒルダと2人で礼拝に参加したかった。しかしハリスにクリスマス礼拝には必ずアンナを誘うように命じられたのだ。そこでエドガーはアンナに声を掛けたのであった。


そこへ背後から声が掛けられた。


「おお、アンナ嬢。よくぞいらして下さいました」


振り向くとそこにはヒルダをエスコートしたハリスが立っていた―。




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