第2章 17 面会
寮だと教えられた木材建築の建物はそれは酷く朽ち果てていた。建てられて相当年月が経っているのだろう。壁となっている板は所々が黒く、腐っているだけでなく、あちこちに隙間が出来ている。この分だと隙間風も入るだろうし、台風などが来た場合は雨風が建物の中に入り込んでくるかもしれない。
「こんな・・酷い建物が寮だなんて・・・。」
ヒルダが青白い顔で呟く。その手は小刻みに震えていた。
「ヒルダ様・・・。」
ルドルフはヒルダの手をそっと握りしめると言った。
「管理人室を・・・尋ねてみましょう。」
「ええ・・そうね・・。」
ルドルフは扉を探す為に建物の傍を歩いている時に、窓が目についたので何気なくチラリとのぞき見し・・息を飲んだ。
「!」
それは寮生の部屋だった。狭い部屋に中には上下の二段ベッドが3台左右の壁に貼り付けるようにピタリと並べられていた。ベッドとベッドの間は人が1人通れるほどの隙間しかなかった。
(何て酷い環境なんだ・・・。こんな狭い部屋に6人も住んでいるなんて・・・。こんな部屋が・・・果たして人の住む環境と言えるのだろうか・・・?)
「どうしたの?ルドルフ?」
ヒルダが声をかけてきた。
「い、いいえ。何でもありません。ヒルダ様・・・足の具合は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。」
「それなら良かった・・・。では行きましょう。」
「ええ・・・。」
数分歩き回り、ようやく2人は扉を見つけた。ルドルフは深呼吸すると、扉をノックした。
ドンドン
「・・・。」
中からは何の応答も無い。
「・・・誰もいなのいかしら?」
「ええ・・妙ですね?もう一度ノックしてみましょう。」
ドンドン
ルドルフは再度ノックしてみた。すると・・・。
「うるさいなぁ・・・!聞こえてるよっ!」
ガラの悪い声が聞こえ、ガチャリと乱暴にドアが開かれた。姿を現したのは赤毛のぼさぼさ頭の若い男だった。ヒルダは男の剣幕に驚き、咄嗟にルドルフの背中に隠れて様子を伺った。
「あ~ん・・・?誰だい?お前たちは・・?」
「すみません。お尋ねしたい事があって参りました。」
ルドルフはヒルダを守るように立ちはだかると男に言った。
「何だ?随分かしこまった口を聞くじゃないか・・・それに・・・。」
男はルドルフの事をつま先から頭のてっぺんまで無遠慮にジロジロと見つめ、次にルドルフの背後に隠れているヒルダをルドルフの肩越しに見ると言った。
「ひょっとして・・あんた達、お貴族様かい?」
何処か、からかう様な口ぶりで言う。
「だったら・・・どうだって言うのですか?」
ルドルフが答えると、男は余程驚いたのか身体をのけぞらせた。
「へぇ~っ!これは驚いたな・・・!貴族と口を聞くなんて始めただっ!しかもこの『ボルト』に貴族が居るとはね・・・。ここは薄汚れた町だから貧乏人しか住んでいないって言うのに・・。で?お偉い貴族様がこんなところへわざわざ来るとは、一体どんなご用件で?」
「僕たちはコリンと言う人物を尋ねてここへやってきました。年齢は17歳です。・・いますよね?」
「コリン・・・コリン・・ああ、あいつか?あの泣き虫『コリン』。」
「え?」
ルドルフはその言葉に耳を疑った。コリンは『カウベリー』では勇敢な少年だった。泣き虫等と言うあだ名は一度だってついた事等無かったのに・・・。
ルドルフが戸惑っていると、男は言う。
「待ってな。今・・連れて来てやるよ。しっかし・・・あいつに面会なんて初めてじゃないのか~・・・。」
言いながら、男はルドルフ達の名前も聞かずに奥へと引っ込んでしまった。それを見ていたヒルダが言う。
「ね、ねえ・・ルドルフ。あの男の人・・・私達の名前を聞かずに行ってしまったけど・・大丈夫かしら・・?」
「ええ・・そうですね。ひょっとすると・・・。」
ルドルフはそこで言葉を切った。
(彼が僕たちの名前を聞かずにコリンを呼びに行ったのも・・ひょっとするとこれも彼への嫌がらせなのだろうか・・?)
やがて・・ギシギシと床を踏み鳴らす音がルドルフ達の元へと近付いて来たー。




