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第2章 15 馬車の中の恋人同士

 ガラガラガラガラ・・・・


ヒルダとルドルフは、馬車の中で揺られていた。あの後すぐにルドルフが手配した馬車がホテルについたのである。そこで2人は馬車に乗りこみ、向かい合わせで座っていた。今向かっているのはコリンが働いている製糸工場であった。

ルドルフは足の上に両手を置き、ぐッと握りしめながら窓の外を眺めていた。 

緊張の為、ルドルフは口を固く閉ざしていると不意に柔らかい手がルドルフに触れた。


「・・?」


見上げると、そこには心配そうな顔をしたヒルダがルドルフを見つめていた。


「ヒルダ様・・・。」


「ルドルフ、もしかして・・・緊張しているの?」


「え・・?」


「ずっとさっきから黙って窓の外を眺めていたから・・それに手も震えていたわ。」


ヒルダはルドルフの手の甲を包み込むと言った。


「ヒルダ様・・・。」



ルドルフは重ねられていたヒルダの手を握り締めると言った。


「すみません、ヒルダ様・・・心配かけさせてしまって・・。」


「いいのよ、そんな事気にしないで・・・。」


するとルドルフが苦し気に言った。


「ヒルダ様・・・僕はあの時の事を思い出してしまったんです・・。」


「あの時の事?」


「はい、冬期休暇になってすぐにカウベリーの駅に降り立った時・・僕はそこで偶然イワンに会って・・・2人で駅の中でベンチに座って話をしました。イワンは酷く震えていて、僕を怯えた目で見ていたんです。僕は久しぶりに彼に会えて懐かしく感じたのに・・・イワンにとってはそうじゃなかった・・・。」


そこでルドルフはうつむいた。


「彼にとって・・僕は・・自分を脅かす存在でしかなかったんです・・・。」


「ルドルフ・・・。」


「本当は怖いんです。ヒルダ様・・・僕がコリンやノラに会った時の彼らの反応が。またイワンの二の舞になったらと思うと・・。それでも僕は・・。」


ルドルフは顔を上げてヒルダを見つめた。


「どうしてもあの2人に真実を話してもらい・・ヒルダ様の無実を晴らしたいんです・・。」


「ル・・ルドルフ・・ありがとう・・。貴方にとってはつらい事なのに・・。」


今度はヒルダがうつむいた。するとルドルフは席を立ってヒルダの隣に座るとそっと小さな体を抱きしめると言った。


「いいんです。僕は・・ヒルダ様を愛しているから・・。」


「ルドルフ・・。」


ヒルダが顔を上げると、ルドルフが言った。


「ヒルダ様・・眼、閉じてください・・。」


「!」


ヒルダは真っ赤になりながらも眼を閉じるとそっと顔に手が添えられ上に向けられた。そして・・ルドルフはヒルダにキスをした―。

それは2人が恋人同士になってからの、初めてのキスだった。

2人は馬車が工場に着くまでの間・・なんどもそっとキスを交わすのだった―。




****


やがて馬車はコリンが勤めている工場に着いた。


「銅貨4枚になります。」


ルドルフは御者にお金を渡すとヒルダに言った。


「ヒルダ様、失礼します。」


「え?キャッ!」


そして軽々とヒルダを抱き上げると馬車から降りた。そしてヒルダを地面におろした。


「ありがとうございました。」


お金を受け取った御者は帽子を少し上げて、会釈すると馬に軽く鞭を当てて馬車は大きな音を立てて走り去っていった。


「ル、ルドルフ・・な、何も抱き上げてくれなくても私は1人で降りられるわよ?」


ヒルダは顔を真っ赤にしながら言う。しかしルドルフは笑みを浮かべると言った。


「いいじゃないですか。ヒルダ様。僕が・・そうやって降りたかったんです。」


「ルドルフ・・。」


するとルドルフはヒルダの右手を握り締めると言った。


「行きましょう。ヒルダ様。」


「ええ・・。」


そして2人はコリンが勤めている製糸工場へと向かった―。




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