第2章 13 『ボルト』のホテルで
ルドルフの言葉通り、駅の真正面がホテルだった。レンガ造りの5階建てのホテルはここ、『ボルト』の町では唯一のホテルらしい。
ルドルフはヒルダを伴ってホテルに入るとヒルダをホールのソファに座らせて1人でフロントへ向かった。そこには男性のフロントマンが立っていた。
「すみません。2部屋予約していたルドルフ・テイラーと申します。」
「はい、お待ちしておりました。ルドルフ・テイラー様と・・・お連れの方1名ですね?」
フロントマンは帳簿をめくりながらペンでチェックした。
「はい、そうです。」
「少々お待ち下さい。」
フロントマンは部屋のキーを2本背後の棚から取り出し、ガチャリとカウンターテーブルの上に置いた。
「お部屋は301号室と302号室になります。どうぞカギをお持ち下さい。」
「ありがとう。」
そしてルドルフは部屋番号が付いたカギをカウンターテーブルから受け取ると、荷物番をしながら待っているヒルダの元へと向かった。
「ヒルダ様。」
背後から声を掛けられ、ヒルダは笑顔で振り向いた。
「ルドルフ。」
「お待たせしました。ヒルダ様。部屋が決まりました。301号室と302号室だそうです。それでは行きましょうか?」
ルドルフはヒルダに手を差し伸べると言った。
「ありがとう・・。」
ヒルダはルドルフの手に右手を乗せると立ち上がり、質問してきた。
「ねえ・・・ルドルフ。301号室と言ったら・・3階の事よね?」
ヒルダの顔には少しだけ不安が混ざっていた。
「あ・・・。」
ルドルフはヒルダの考えが分かった。足が不自由なヒルダは3階まで階段を上るのは少し不安を感じているという事に。
「大丈夫ですよ、ヒルダ様。ここは工場の町『ボルト』です。ちゃんとエレベーターが設置してあるので大丈夫ですよ?」
ヒルダを安心させるために笑顔で答える。
「え・・?エレベーター・・・・?」
一方のヒルダは初めて聞く言葉に首を捻った。
「ルドルフ、エレベーターって何かしら?」
「百聞は一見に如かずですよ、では行ってみましょう。『エレベーター』乗り場へ。」
ヒルダはルドルフに手を引かれ、エレベーターホールへ向かった―。
「こ、これが・・・エレベーターなの・・・?」
ヒルダは目の前にあるエレベーターを見て目を見開いた。
「ええ。そうです。僕も見るのは初めてなのですが・・・この中のボックスに入って、レバーでボックスが上下に動くそうですよ。仕組みはよくわからないのですが、ワイヤーで巻き上げて動かしているそうなんです。」
「そうなの・・・本当にこの辺りは都会なのね・・・カウベリーに住んでいたころはバスやエレベーターなんて考えられなかったもの・・・。」
感心しているヒルダにルドルフは言った。
「ヒルダ様。ここで待っていて下さい。今ホテルの人を呼んでエレベーターを動かしてもらいますから。」
「ええ。分かったわ。」
ルドルフはすぐにフロントへ向かうと、エレベーターを動かしてほしい旨を説明し・・・ホテルマンを連れて戻ってきた。
「お待たせいたしました。すぐにご案内します。」
ホテルマンはエレベーターの引き戸に手を掛けると、ガラガラと開けた。すると中は何もない狭い空間だった。
「どうぞ、お乗りください。」
2人が乗り込むと、再びホテルマンはエレベーターのドアを手で閉じると、レバーを操作する。
ガコン・・・・
大きな音を立てて、ゆっくりとエレベーターは上昇していき・・。
チーン
音が鳴った。
「お待たせ致しました。3階に到着致しました。」
ホテルマンの言葉にヒルダは驚いた。
「まあ・・もう着いたの?」
「はい、足元にお気をつけてお降りください。」
ホテルマンが言う。
「行きましょう、ヒルダ様。」
「ええ。」
そして2人は手を取り合ってエレベーターを降りた―。




