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第2章 12 『ボルト』の町

ガタンゴトン・・・

ガタンゴトン・・・


揺れる車内は人の数はまばらだった。その中にヒルダとルドルフの姿があった。


「ヒルダ様、寒くはありませんか?」


汽車の向かい側に座るルドルフが心配そうに声を掛けてきた。


「ええ、大丈夫よ。ルドルフ。」


「そうですか・・?一応ブランケットを持ってきたのですがお使いになりますか?」


言いながらルドルフは自分の持ってきたトランクケースから薄手のクリーム色のブランケットを取り出すと慌てた様に言った。


「あ、念の為に言っておきますけど・・・この毛布は新品です。ヒルダ様の為に・・用意しました。足が冷えたらいけないと思って・・・。」


ルドルフは頬を赤らめながら言う。


「ルドルフ・・・。わざわざ私の為に新しいブランケットを用意してくれたの?」


「はい・・・寝具店の前を通りかかった時、ヒルダ様の髪の色に似たブランケットを目にしたので・・。」


「ありがとう・・・。とても嬉しいわ・・・。それじゃ・・使わせて貰うわ。」


「はい、どうぞヒルダ様。」


ルドルフはヒルダにブランケットを手渡した。ヒルダはそれを膝に掛けると嬉しそうに言った。


「フフフ・・・とても暖かいわ。ありがとう。」


「いえ・・・。とんでもありません・・・。」


「それにしても・・・今、こうしてルドルフと2人で汽車に乗って旅をしているなんて・・まるで夢の様だわ。」


笑みを浮かべて、窓から外を眺めるヒルダをじっと見つめながらルドルフは思った。


(ヒルダ様・・・貴女の為なら、僕はどんな事だって・・。)


ルドルフはある決意を固めていた。もしコリンとノラを見つける事が出来たら、ヒルダの足の怪我の原因を必ず問い詰め・・2人に謝罪させてやるのだと―。




****


2時間後―


ボーッ・・・・


シュウシュウと汽車から吐きだされる蒸気に包まれた『ボルト』のプラットホームにヒルダとルドルフは降り立った。


「ヒルダ様、足の具合は大丈夫ですか?この『ボルト』の駅の直ぐ向かい側のホテルに2部屋予約を入れてあります。まずは荷物を置いて、何処かでお昼を食べてから工場へ向かいましょう。荷物は僕が全て持つので任せて下さい。」


ルドルフはヒルダに言った。


「でも・・ルドルフ、貴方だって荷物があって大変なのに・・私なら大丈夫よ?自分の荷物位、自分で持てるから。」


するとルドルフは真剣な目でヒルダを見つめた。


「ヒルダ様・・僕はもう17歳なんです。もう・・・『カウベリー』に住んでいた頃の非力な男ではありません。だから・・・もっと僕を頼って下さい。」


「ルドルフ・・・。」


ヒルダはルドルフを見上げると言った。


「勿論、そんな事・・思ってもいないわ。だ、だって・・貴方は『カウベリー』にいた頃よりもずっと背も伸びて・・それに、すごく・・・素敵になったもの・・。」


最後の方の台詞を言う時は、ヒルダの顔は真っ赤に染まっていた。


「ヒルダ様・・・。」


ルドルフはそっとヒルダの小さな手を握りしめると言った。


「荷物は全部僕が持ちます。外は冷えるので・・・早くホテルに行きましょう。」


「ええ・・そうね・・・。」


そして2人は改札へ向かって歩き出した―。




 『ボルト』は工業地帯の町であり、駅の周辺は全て工場でひしめき合っていた。そして立ち並ぶ工場からは大きくて太い煙突が生え、そこからは黒い煙がモクモクと噴き出している。町を歩く人々の姿は殆ど見られなかった。

駅の外に出たヒルダはポツリと言った。


「『ボルト』は・・空気が悪い町なのね・・?」


「ええ、そうなんです。常に工場からは煙が吐きだされ・・この町の住民たちは喘息が酷いと聞いてます。でも・・・ここで働かざるを得ないので・・皆環境が悪いこの町に健康を害しながらも我慢して住んでいるらしいです。」


説明するルドルフの表情は暗かった。そして改めてヒルダを見ると言った。


「ヒルダ様、ここは空気が悪いので・・・ホテルへ向かいましょう。」


ルドルフの言葉にヒルダは頷くのだった―。



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