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第1章 14 ルドルフの為に

コポコポコポ・・・・


ヒルダが茶葉の入ったカップにケトルで沸かしたお湯を注ぐ姿をルドルフはじっ見つめていた。とても静かで・・穏やかな時間だった。


(僕の為に・・・ヒルダ様がお茶を淹れてくれているなんて・・。)


ルドルフは今夢の中にいるかのように幸せだった。大好きだった少女ヒルダ・・。

2人の気持ちは同じだと信じて疑ってなかった日々の中、突然理由も分からず冷たい言葉でルドルフに別れを告げ・・・悲劇的な事件が起こり・・・必死の思いで会いに行ったのに、そこでも激しく拒絶され、ボロボロに傷ついた心。そしてルドルフの前から去って行ったヒルダ。

心はボロボロに傷つき、ルドルフの人格を変えてしまった。もう二度と誰も愛することは出来ない・・失意の念で遠い外国へ1人渡り・・戻って来たルドルフにもたらされたヒルダの居場所。

気付けばルドルフはヒルダの後を追うように・・同じ学園に入っていた。それほどまでに心の底ではヒルダを渇望していたのだ。


「どうぞ、ルドルフ。」


カチャリとルドルフのテーブルの前に、ソーサーに乗ったカップが置かれた。


「ありがとうございます。」


一気に現実に引き戻されたルドルフはカップの中を見た。

カップの中には飴色のカウベリーティーが湯気と共に良い香りを漂わせている。


「これは・・カウベリーティーですか?」


「え、ええ・・。折角ルドルフがお土産にくれたものだから・・2人で一緒に飲んでみたかったの・・。」


頬を赤く染めてモジモジしながら言うヒルダの姿は本当に愛らしく・・・ルドルフの胸の鼓動が高なった。


「嬉しいです・・ヒルダ様が僕の為にカウベリーティーを淹れて下さるなんて・・。」


すると、それを聞いたヒルダはパッと顔を上げてルドルフを見た。


「あ、あの・・ルドルフ。私実は・・クッキーとマフィンを焼いたの・・。ルドルフに食べてもらいたくて・・・。」


「本当ですか?ヒルダ様の手作りのお菓子ですか?是非いただけますか?」


「ええ、待っていてね?今・・持ってくるから・・。」


ヒルダはカタンと椅子を引いて立ち上がると、キッチンへと向かった。その後ろ姿をルドルフはじっと見つめていると、すぐにヒルダが現れた。手には焼き菓子が乗ったお皿が乗っている。


「どうぞ・・・。」


ヒルダはテーブルにお皿を置いた。そこにはヒルダが作ったクッキーとマフィンが乗っている。


「うわ・・美味しそうですね・・・。」


焼き菓子からはバニラエッセンスの甘い香りが漂っている。


「ヒルダ様・・頂いてもいいですか?」


「ええ、食べてみてくれる・・・?」


「はい。」


ルドルフは早速マフィンを口に入れた

しっとりと甘みのあるマフィンはとてもおいしく、ルドルフの口によくあった。


「ヒルダ様・・とても美味しいです。」


「本当に・・そう言って貰えると・・作った甲斐があったわ・・・。」


「え?ヒルダ様・・まさか僕の為に・・?」


「え?ええ・・そうなの。ルドルフが私とアンナの為にケーキを買ってきてくれたから・・お礼にと思って。マドレーヌのお店のケーキには足元にも及ばないのは分かっているのだけど・・。」


自身無さげに俯き加減に言うヒルダにルドルフはそっと言った。


「そんな事無いですよ。」


「え?」


ヒルダは顔を上げた。


「このマフィン・・・ヒルダ様の気持ちが込められていているのを感じます」


そしてルドルフは優しい笑みを浮かべて微笑んだ―。


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