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第12章 12 故郷との別れ

 カウベリーの駅には既にヒルダを見送る為に一足先にエドガーガ到着してヒルダが来るのを待っていた。


「エドガー様っ!」


馬車から降りたアンナが駅の入り口でこちらを向いて立っているエドガーに手を振った。エドガーも笑顔で手を振り、駆け寄るとアンナに言った。


「アンナ嬢、本当に君には感謝しているよ。ありがとう。」


そして優しくアンナの頭を撫でた。


「エ、エドガー様・・・。」


途端にアンナは顔を真っ赤にしてエドガーを見上げる。

次に降りてきたのはアンナの侍女のコゼットだった。手にはヒルダのキャリースを持っている。エドガーは彼女にも声を掛けた。


「コゼット、君にも世話になったな。ありがとう。」


「いいえ、とんでもございません。あの、エドガー様。次にヒルダ様が降りられるので手を貸していただけますか?」


コゼットはエドガーに頼んだ。


「ああ、勿論だ。」


そしてエドガーは馬車を覗き込むと、そこにはかつらをかぶり、黒縁の眼鏡という変装をしたヒルダが座っていた。


「お兄様・・・。」


「ヒルダ、降りよう。手を貸すよ。」


エドガーはヒルダに手を伸ばしながら思った。


(結局最後までヒルダの素顔を見る事が出来なかったな・・・。)


エドガーはそれが悔やまれてならなかった。自分と同じ金の髪に青い瞳の美しいヒルダの素顔を・・・最後位は見たかったのだ。


「ありがとうございます、お兄様。」


ヒルダは寒さで痛む左足を庇うように立ち上がり、エドガーの手を借りて地面に降り立った。アンナは辺りに人気がいないことを確認すると、言った。


「ヒルダ様、念の為に『ロータス』へ着くまではその姿のままいた方が良いと思います。」


「ええ、そうですね。アンナ様。」


そしてヒルダはアンナの手を取ると言った。


「本当に・・アンナ様。ありがとうございました。アンナ様のお陰です。もう二度とお目にかかれないかと思っていたお母さまに会えたのは・・・・。」


「ヒルダ様・・・。」


アンナはヒルダの手を強く握りしめると言った。


「ヒルダ様、今度是非また・・・いらしてくださいね?!」


「はい。ありがとうございます。」


ヒルダは丁寧に頭を下げると、次にエドガーを見た。


「お兄様・・。」


「ヒルダ・・・。」


「お母さまの事と・・・・そしてお父さまを・・・どうぞよろしくお願い致します・・。」


「ああ・・分かったよ。ヒルダ。また・・・手紙をくれるかい?」


エドガーは目の前のヒルダを強く抱きしめたい衝動を抑えながら静かに言った。


「はい・・・。勿論です。」


「ヒルダ様。後15分で列車が来ます。そろそろ行かれた方が良いですわ。」


コゼットの言葉にヒルダは頷くと、彼女からキャーケースを受け取った。


「それでは・・皆様。名残惜しいですが・・私、もう行きますね?」


ヒルダは頭を下げた。


「ああ、元気でな。」


「ヒルダ様!これ・・私の屋敷の住所です。私にも・・お手紙下さいね?」


アンナがヒルダにメモ紙を差し出した。ヒルダはそれを受け取ると言った。


「はい、着いたらすぐにお手紙書きます。」


そして、荷物を持つとエドガー達に手を振り・・コツコツと靴音を鳴らしながら、駅の改札へ消えて行った。その後ろ姿を見ながらエドガーは言った。


「アンナ嬢・・・俺は諦めないよ。グレースは死んでしまったけど・・必ずヒルダの無実を証明して・・堂々と『カウベリー』へ里帰り出来るようにしてみせる。」


するとアンナも言った。


「はい、エドガー様。私はヒルダ様が好きです。お手伝いさせてください。」


やがて・・・。


ボーッ・・・・・


汽笛の音が聞こえ・・・ゆっくりとヒルダを乗せた列車がカウベリーの駅を出て行く姿をエドガー達はいつまでも見送っていた―。





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