第12章 10 イワンの母
エドガーが帰った後、ルドルフは未だにイワンの墓標の前で膝をついて茫然としたままの彼女に近付いた。お葬式に参加した人々は全員帰宅し、その場に残っていたのはイワンの母とルドルフの2人きりであった。
「おばさん。」
ルドルフは背後から声を掛けたが、イワンの母は反応しない。
「おばさん。僕です・・・ルドルフです。イワンの友人だった・・・。」
再度ルドルフが声を掛けると、イワンの母が反応した。
「え・・・?イワンの・・?」
そしてうつろな瞳でルドルフを見つめ・・やがて眼を見開いた。
「ルドルフ・・・ルドルフじゃないかっ!ちょうどいいところへ来てくれたね!村の皆が・・・私の可愛いイワンを・・・勝手にこの土の下に埋めてしまったんだよっ!ルドルフ・・あんたは賢い子だから分かるだろう・・?村の皆はイワンが駅で働けている事に嫉妬して・・・それでイワンを土の下に入れてしまったのさ!イワンが助けを呼んでいるんだよ!苦しい、ここから出してくれって!早く助けるのを手伝って遅れよっ!」
イワンの母は狂気じみた目でルドルフに迫った。
「おばさんっ!落ち着いて下さいっ!イワンは・・イワンは死んだのですっ!目を覚まして下さいっ!」
ルドルフはイワンの母の両肩に手を置き、必死になって説得する。
「う・・嘘よっ!あの子が・・イワンが私を置いて先に死ぬはずないじゃないかっ!ルドルフ・・・あんたまで私が頭が悪い女だと思って馬鹿にしてるのかいっ?!」
そして激しく抵抗し、ルドルフにつかみかかろうし・・・。
「やめなさいっ!!」
何処から声が響き渡り、2人の大人の男性たちが駆けつけてくるとそのうちの1人がイワンの母を抑え込んだ。
「落ち着きさない!まずは一度教会に戻るのだ。」
「イヤアアアッ!離せっ!離しなさいっ!」
イワンの母は髪を振り乱しながら暴れるも、流石に男性の力には叶わないのか、ずるずると引きずられるように教会へ連れて行かれた。彼女の怒声は枯れ木だらけになった林に響き渡っていた―。
「君・・・大丈夫だったかい?」
口ひげを生やした大柄な男性がルドルフに声を掛けて来た。
「は、はい・・ありがとうございました・・。」
ルドルフは顔を上げて男性を見た。その人物は・・・とても大きな身体をしていた。ルドルフの身長は178㎝あったが、その男性はさらにルドルフの頭1つ分ほどは背が高かった。
(誰だろう・・この人は・・・・。)
見たところ、なかなか上質なコートを着ているし。頭にかぶった帽子は・・・。
「あ・・もしかすると・・警察の方・・・ですか?」
ルドルフが尋ねると、男性は驚いたように目を見開いた。
「あ、ああ・・そうだが・・それにしても君・・よく私が警察の人間だと分かったね?」
するとルドルフは言った。
「ええ・・頭にかぶっている帽子に・・・警察のバッチが付いていましたから。」
ルドルフの言葉に警察官は感心したように言う。
「ほう・・君は観察眼があるなぁ・・・なかなか見どころがありそうだ。どうだい?将来は警察官を目指してみないか?」
「い、いえ・・・僕の将来の夢は・・医者になることですから・・。」
それを聞いた警察官は大きな声で笑った。
「ハハハハ・・・これは参ったな。もうフラれてしまうとは。」
「すみません・・・。」
思わずルドルフがうなだれると、慌てたように警察官は言う。
「い、いや・・・君。気にしないでくれ。ほんの冗談だから・・。それにしても・・君はイワン君の・・・知り合いだったようだな?」
警察官からイワンの名前が出てきたのでルドルフは驚いて顔を上げた。
「え・・・?な、何故イワンの名前を・・・?」
すると警察官から驚きの言葉が出てきた―。




