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第9章 5 ルドルフの帰郷 5

 それから小一時間―


エドガーとルドルフ、アンナは暖炉の燃える温かい応接室でお茶を飲みながら、互いの学校についての話や勉強、趣味の事・・等々、たわいも無い話をして過ごした。


ボーン

ボーン

ボーン


振り子時計が12時を示す音が応接室に鳴り響いた。


「あ・・もうこんな時間だなんて・・・。それではそろそろ僕はおいとまします。」


ルドルフはソファから立ち上がると言った。


「え?帰ってしまうのか?折角一緒に昼食を食べようかと考えていたのに。」


エドガーが顔を上げた。


「ええ、エドガー様の言う通りよ。フィールズ家の料理はとても美味しいのよ?」


アンナは言う。


「いえ・・母が待っていますし、あまり長居をして雪が酷くなってきても困るので。」


ルドルフは窓の外を見つめながら言う。


「そうか・・・なら仕方ないな。それじゃ俺もエントランスまで送ろう。アンナ嬢は寒いからここに残っていた方がいい。」


「はい、エドガー様。」


アンナは素直に返事をする。


「それでは行こうか、ルドルフ。」


「は、はい・・。」


その時、ルドルフは気が付いた。恐らくエドガーは自分と2人きりになる為にエントランスまでついて来るのだと・・・。

案の定、応接室を出て歩き始めるとすぐにエドガーが囁いて来た。


「ルドルフ・・・明日はアンナ嬢は屋敷には来ない。すまないが・・・明日も来ることが出来るか?」


「ええ、大丈夫です。」


「ヒルダの事で来たのだろう?」


「はい、そうです。」


「そうか・・・実は俺も大事な話があったんだ。」


「大事な話・・?」


「ああ、母さんの様態が・・・思わしくないんだ・・・。」


エドガーの深刻そうな話にルドルフは思わず足を止めた―。




午後1時―


ルドルフの母はまだ帰宅してこない息子の事を心配し、何度もリビングの窓からルドルフの戻ってくる姿を確認しようと覗き込んでいた。するとその時・・・。


ガチャリ


屋敷の出入り口の扉が開かれる音が聞こえた。


「ルドルフ?」


母がエントランス迄出てくると、そこには頭から雪をかぶったルドルフが青ざめた顔で立っていた。


「まあ!ルドルフッ!一体どうしたというの?早く雪を落とさないと!」


「・・・。」


しかし、ルドルフは聞こえてるのか聞こえていないのか、無反応で俯いたままじっとその場に立ち尽くしていた。


「ルドルフッ!一体どうしたというの?!」


母はルドルフの身体から雪を払い落としながら尋ねた。すると、ようやくルドルフは口を開いた。


「母さん・・・。マーガレット様の様態が・・悪いって・・・。」


「ルドルフ・・・その話を一体どこで・・・?」


「ヒルダ様に伝えないと・・・。」


ルドルフが呟くと、母の顔が青ざめた。


「ルドルフッ!やめなさいっ!あのお方の名を口にするのはっ!」


「か、母さん・・・?」


ルドルフの母はヒステリックに叫ぶと声を震わせた。


「駄目・・・駄目なのよ・・・ルドルフ・・・この土地で生きていくには・・・もうあの方の名前を口にしては・・いけないのよ・・!こんな事が他の領民たちの耳に入ろうものなら・・ただではすまされないわ・・。」


「母さんっ!だけど・・。」


「ルドルフッ!」


しかし、母は遮るように声を荒げた。


「忘れてしまったの・・・ルドルフ。今、私たちが爵位を持てて・・・こんなに裕福な暮らしが出来るのも・・お前が進学することが出来たのも・・・そしてお父さんの仕事を・・・。」


「・・・・。」


ルドルフは苦し気に俯いた。


(そうだ・・僕たちが今の暮らしを手に入れる事が出来たのは・・全てハリス様のお陰・・だけど・・・ヒルダ様に対する仕打ちは・・・いくら何でも酷過ぎる・・!)


エドガーの話によると、マーガレットの様態はかなり悪いらしい。以前まではベッドから起き上がり、椅子に座ることも出来たのだが今ではもうほとんど寝たきりのような状態になってしまったそうだ。医者の話では本人がすでに生きる希望を失っているのが原因だと指摘されている。


(生きる希望を失っている・・それは何故なのか分かり切っているのに・・っ!)


ルドルフは・・・改めて自分の無力さを思い知り・・下唇を強く噛み締めた―。


 



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