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第9章 2 ルドルフの帰郷 2

ガラガラガラガラ・・・


駅前で辻馬車を拾ったルドルフは馬車に揺られながら窓の外の景色を眺めていた。

今年は雪が多いのだろうか。まだ12月に入って間もないと言うのに『カウベリー』は一面の銀世界に覆われていたが、歩道は雪かきがされている為に馬車で通行する分にはさほど問題は無かった。


 ルドルフは馬車の中でぼんやり窓の外の景色を眺めながら先程偶然再会したイワンの事を考えていた。


(イワン・・・一体どうしたと言うんだろう・・・何だか様子がおかしかった・・。どうしてあんなに怯えた目をしていたのだろう・・?ひょっとして・・僕の雰囲気が変わってしまったから・・・なのかな・・?)


ルドルフは自分の性格がすっかり変わってしまった事は自覚を持っていた。それらは全てヒルダに冷たい態度を取られ・・何度も何度も心をズタズタに引き裂かれるような辛い失恋を繰り返してきたからだった。それでも・・・。


(それでも・・僕はヒルダ様を・・・まだこんなにも思っている・・だからロータス迄追いかけてしまったし・・・オリエンテーリングでは・・ヒルダ様の下へ駆け寄ってしまったんだ・・・。)


そして、意識を失っているときにヒルダがうわ言で呟いた言葉・・・。


『 ルドルフ・・・貴方が好き・・・。 』


あの言葉を聞いた時、凍り付いていたルドルフの心に僅かながらひびが入った気がした。温かい気持ちがそのひびに入り込み・・少しだけ凍った心が解けていくような感覚をおぼえた。しかし・・・オリエンテーリングが終わり、学園に戻ってからのヒルダの態度は・・以前とまるきり変わらない素っ気ない物であった。


(やっぱりあの時の言葉は僕の聞き間違いだったのかもしれない・・・。だけど・・僕からはもうヒルダ様に愛を告げる事は出来ない・・!また拒絶されたら今度こそ僕の心は完全に凍り付いてしまうに決まっているから・・!)


ルドルフは苦悩に眉をしかめ、窓の外を眺めながらため息をついた。


ルドルフは自分の取っている態度のせいでヒルダが距離を置こうとしている事に全く気づいていなかったのだ―。



やがて馬車はルドルフの住む屋敷の敷地内に止まった。ルドルフは馬車代として銀貨1枚を支払い、馬車から降りた。すると外はもう大粒の雪が降り始めていた。

ルドルフは大きなキャリーケースを持つと屋敷へ向かった。


コンコン


真鍮で作られた黄銅色に鈍く光るドアノッカーを掴んで叩くと、ほどなくしてガチャリとドアが開けられた。


「まあ・・ルドルフ・・・!」


出てきたのはルドルフの母だった。


「ただいま、母さん。」


ルドルフは頭や肩に降り積もった雪を玄関先で払いながら、母に挨拶をした。


ルドルフの母は、成長してすっかり背が伸びたルドルフの首に腕を巻き付けると言った。


「お帰りさない、ルドルフ。」


「うん・・・ただいま、母さん。」


そしてルドルフは母の背中にそっと腕を回した―。




「ルドルフ、『カウベリー』は寒いでしょう?」


母は暖炉で温めた部屋にルドルフを通し、テーブルの前に座っているルドルフの傍に熱いココアを置くと言った。


「うん・・そうだね。やっぱりここの土地は・・雪深い場所なんだと改めて思ったよ。」


ルドルフは早速ココアに口をつけると言った。母もルドルフの向かい側の席に座ると、我が子の成長した姿を目を細めて見つめている。


「そう言えばルドルフ・・・。」


「何?」


「転校して間もないのに・・もうクラス委員を務めているんですって?」


「え?どうしてその話を・・!」


ルドルフは話してもいないのに母がその事実を知っていることに対して驚いた。


「貴方の担任の先生から手紙が届いて分かったのよ。」


「そうだったんだ・・。」


「本当に・・・貴方は優秀な息子だわ・・。昔は高校すら出して上げられるかどうか分からない状態だったのに・・・フィールズ家の旦那様のお陰で・・大学に勧める事が出来る身分になれたのだから・・・。」


母が笑みを浮かべて嬉しそうに話している姿を・・ルドルフは複雑な思いで見つめるのだった―。




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