第8章 1 マイクの登校
オリエンテーリングから1週間のある朝―。
登校してきた生徒たちは思い思いにクラスメイト達と楽し気に話をしていた。ヒルダもマドレーヌと、そしてオリエンテーリングで同室だったジャスミンとキャロルとも今では良い友達となっていた。
「それでね・・・うちの新作のスイーツが今、とっても人気なのよ。」
マドレーヌが興奮気味に話している。
「すごいわね。貴女も将来有能なパティシエになれるかもね。自分の考案したスイーツが人気になるなんて。」
キャロルが感心したように言う。
「そうね・・・きっとマドレーヌは人気のあるパティシエになれるわ。」
ヒルダも口を開いたその瞬間・・・。
ガラリ
教室のドアが開かれ、教室にいた全員がドアの方に注目すると、そこにはバツが悪そうにしているマイクが立っていた。
(マイク・・・ッ!)
ヒルダは咄嗟に視線を反らせた。
「まあ・・マイクだわ。」
ジャスミンが眉をひそめた。
「全く・・・ヒルダにあんな酷い事をしておきながら、よく登校出来たわね?」
マドレーヌが憎々し気に言う。
他のクラスメイトたちも同じように思っているのか、全員が敵意を込めた目でマイクを見て、ヒソヒソと話をしている。
「・・・。」
マイクは俯くと、自分の席に向かい・・椅子を引くと着席した。
「あいつ・・よく学校へこれたよな?」
「図々しい人よね・・・。」
「俺、あいつがクラス委員長なんて反対だよ・・・。」
等々、クラスメイトの大半がわざとマイクに聞こえよがしに話をしている。そしてマイクは俯き、じっとその言葉に耐えているようにも見えた。
「いい気味よ・・・これで少しは反省するでしょう?」
キャロルが言う。
「反省・・・。」
ヒルダは小さく呟いた。
マイクが謹慎処分を受けた日から・・・ヒルダのアパートメントのポストには毎日マイクからの謝罪の手紙が投函されていた。そこには切実な思いが込められており・・ヒルダには、もうマイクが十分に反省しているように思えた。
(マイクが・・何だか気の毒に思えるわ・・。でも私にはどうする事も出来ないし・・何よりもまだ・・マイクが怖いわ。)
なのでヒルダはマイクから視線を反らせてマドレーヌたちと話をしていると、突然教室がざわめいた。
「みて、マイクがこっちに向かって歩いて来てるわ。」
ジャスミンが素早くヒルダ達に言う。
「え?」
ヒルダが振り向くと・・既にそこにはマイクが立っていた。
「おはよう、ヒルダ。少し話がしたいんだけど・・・。」
すっかりやつれ切ったマイクがヒルダを見下ろす。
「駄目よっ!またヒルダに嫌がらせをする気ね?!」
マドレーヌが立ち上がってマイクと対峙する。そして教室はいつの間にか静まり返り、ヒルダ達に注目が集まっていた。
「ち、違うよ・・・僕はただ・・・ヒルダにもう一度ちゃんと謝罪を・・。」
そこへキャロルが口を挟む。
「謝罪?謝罪で済むの?あの日、ヒルダはねえ・・・ロータスに運ばれた後、丸1日病院に入院したのよ?それを分かってるの?!」
「!わ・・分かってる・・ぼ、僕は・・。」
マイクは両手を握り締めるとした唇をかんだ。
(このままでは・・マイクのクラスでの立場がますます悪くなってしまうわ・・・。)
そこでヒルダは口を開いた。
「謝罪の事なら・・・いいわ。マイク・・。貴方からの誠意は・・毎日届けられた手紙でよく分かったから・・もう済んだことだから・・・気にしないで。だから・・皆も・・もう、マイクを責めないで上げてくれる?」
ヒルダはクラス全体を見渡しながら最後に全員に呼びかけた。
「ヒルダ・・・。ありがとう・・。」
マイクは今にも泣きそうな顔で礼を述べた。クラス中がヒルダの言葉にざわめいた。
そしてそんなヒルダをルドルフはじっと見つめていた。
(ヒルダ様・・・本当はマイクの事がまだ怖くてたまらないはずなのに・・あんな風にマイクに言うだけでなく、クラス中に呼びかけるなんて・・やはり貴女は優しい方ですね・・・。それに・・・あの言葉は・・聞き間違えでは無いですよね・・?)
洞窟で意識を失っていた時・・ルドルフの腕の中でヒルダはこう呟いたのだ。
ルドルフ・・・貴方が好き・・・。
と―。




