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第2章 3 ヒルダの馬術練習

 ヒルダは学校が終わると毎日毎日、マルコの元へ行き、馬術の訓練をした。休暇の日は朝から夕方まで必死になって訓練を続けていたのだが・・・。


ある日―


ヒルダは毎日自分の馬術練習に付き合ってくれているマルコの仕事が溜まって来てしまった事に気が付いた。そこで流石に申し訳ないと思いヒルダは言った。


「マルコさん。ここから先は私1人で練習をするので大丈夫ですよ?」


馬術の練習を開始して1週間が経過した頃のことであった。


「で、ですがヒルダお嬢様・・・。お1人で練習は危険ではありませんか・・?」


マルコは心配そうに言う。


「いいえ、大丈夫です。それにマルコさんはお忙しい方ではありませんか?何時までも私の練習に付き合って貰うのは申し訳なくて。」


「ヒルダお嬢様・・何とお優しい言葉を・・・。全く、ルドルフが手伝いに来てくれればいいものを・・・。」


マルコの口からルドルフの名が飛び出してきて、ヒルダはドキリとした。


「あ・・あの、マルコさん・・・。ルドルフは今どうしているのかしら・・?」


「ええ。それがルドルフときたら・・・最近はちっともこちらに顔を出す事も無くなり、友人と勉強会を開いて、その子の家で勉強をしているらしいんですよ・・。どうもその子の家はお金持ちの商家の家らしくて・・。全く今更勉強しても・・我が家は進学なんてさせる余裕は・・。」


マルコの消え入りそうな言葉をヒルダはなすすべもなく聞いていた。すると、ヒルダの落ち込んだ様子に気付いたマルコが慌てて取り繕うように言う。


「あ・・・!ヒルダ様、今の言葉は気にしないで下さいね?と、とに角ルドルフに一度こちらに来てヒルダお嬢様の馬術の練習を手伝うように伝えますから。」


「でも・・マルコさん。決してその時はルドルフに無理強いするような言い方はしないで下さい。本当に・・ルドルフの気持ちに任せて下さいね?どうかお願いします。」


ヒルダは頭を下げた。ルドルフに会えるのは嬉しいが、マルコに言われて無理矢理ここへ来て貰うのだけは嫌だったのだ。


(だって・・・ルドルフに嫌われたくないもの・・・。)




 その夜の事―


夕食の後、ヒルダは部屋で1人アルコールランプを前に読書をしていた。その時、バルコニーのある窓にコツン、コツンと何かがぶつかるような音が聞こえて来た。


「え・・?気のせいかしら・・?」


本から顔をあげて耳をそばだてると再びコツンと音が聞こえる。


「・・・?」


何事かと思い、バルコニーの窓を開けて外に出たヒルダは驚いた。


部屋の窓の下に、ルドルフが立っていたのである。


「ルドルフッ!」


ヒルダはバルコニーから身を乗り出す形で下を覗きこんだ。


「こんばんは。ヒルダ様。こちらへ伺うのがすっかり遅くなってしまって申し訳ございませんでした。ずっとここへ来たいと思っていたのですけど・・・・実は今僕、友人の家庭教師をしているんです。本当は同級生の勉強を見るなんておこがましいと思って断ったのですけど・・彼女には色々お世話になったので、どうしても断り切れなくて・・・。」


(え・・?彼女・・・?彼女ってもしかして・・・。)


ルドルフの言葉にヒルダは思い当たる事があった。ヒルダがバスケットに入れたお見舞いを持ってルドルフの家に持って行った時、彼におかゆを食べさせていた少女・・・。


「あ、あの・・彼女ってもしかして・・・髪の長い人の事・・かしら・・?」


「ええ、そうです。ヒルダ様・・・何故グレースの事を知っているのですか?」


「そう・・・彼女。グレースっていう名前なの・・素敵な名前ね?」


ヒルダの胸は潰れそなほど悲しかったが、わざと笑顔で言った。


「そうですね。それで明日からはヒルダ様の馬術の練習にお付き合いしますから・・それを伝えに来たんです。」


ルドルフは笑顔で答える。


「え・・?で、でも・・グレースは・・?」


(まさかマルコさん・・無理やりルドルフに命令を・・?)


「彼女の事ならもう大丈夫です。大分勉強も理解出来るようになったので・・もう僕がいなくても大丈夫ですよ。それじゃ、ヒルダ様!また明日っ!」


ルドルフはそれだけ言うと、月明かりの下を走り去って行ってしまった。


「ルドルフ・・・本当は・・マルコさんに命令されたんじゃないのかしら・・?」


そしてヒルダはためいきをつくと、夜空を見上げた。

夜空には大きな満月が浮かんでいた—。



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