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第4章 16 母への手紙

「ただいま、カミラ。」


ヒルダがドアを開けて帰宅すると、部屋の奥から慌ただしくカミラが駆けつけてきた。


「お帰りさなさいませ、ヒルダ様。あまりにも帰りが遅いので心配しておりました。」


カミラの言う事も最もだ。時間はすでに16時になろうとしている。


「ごめんなさい、カミラ。帰るのが遅くなってしまって。」


ヒルダは廊下を歩きながら申し訳なさそうに言う。


「いえ・・・エドガー様がご一緒だったので、大丈夫だとは思っておりましたが・・・。」


そこでカミラはあることに気が付いた。


「ヒルダ様、ひょっとして・・・海へ行かれましたか?」


「え?何故分かったの?」


ヒルダは洗面所で石鹸を使って手を洗いながら驚いたようにカミラを振りむいた。


「いえ・・・ヒルダ様の髪から潮の香りがしたものですから・・。」


「え?全然気づかなかったわ。」


ヒルダは自分の髪を救い上げて匂いを嗅いだ。


「本当だわ・・・。実はね、お兄様と一緒に港から蒸気船に乗って小島へ渡ったの。そしたら偶然フランシス達に会ったのよ。そこでみんなで海で貝殻を拾ったり、お昼は島のハンバーガーショップでハンバーガーを食べたりしてきたの。それで遅くなってしまったのよ。でも・・こんなに潮の香りがついているならシャワーを浴びた方が良いかしら?実はお兄様から18時に私達、お食事に誘われているのよ。」


「まあ、そうだったのですか?それならどこかレストランへ入ると言う事ですよね?でしたらシャワーを浴びた方が良いかもしれません。お待ちくださいね、ヒルダ様。すぐに準備をしてまいりますので。」


カミラは立ち上がるとヒルダの入浴の準備を始めた。


「ありがとう、カミラ。」


そしてヒルダは自分の部屋へ行くと、勉強机の引き出しからレターセットとペンを取り出した。


(お母様にお手紙書かなくちゃ・・・。)


でも何から書けばよいのかヒルダは分からなかった。何しろ『カウベリー』を離れて既に2年近い時が流れているのだ。伝えたいことは山ほどあるのに、いざペンを握ると、書き出し方が分からない。


(やっぱり私が元気で過ごしていることを手紙に書いた方が良いわよね・・。)


そこまで考えていた時、ヒルダの部屋のドアがノックされた。


「ヒルダ様。入浴の準備が出来ました。」


「ありがとう、カミラ。」


ヒルダは部屋の中から声を掛けると、椅子から立ち上った。


(とりあえずお手紙は入浴後に書くことにしましょう。)


クローゼットの中から着替えを取り出すと、ヒルダは部屋を後にした―。




「ふう~・・さっぱりしたわ。ありがとう、カミラ。」


ヒルダは長い髪をタオルでまとめながらリビングへ現れた。


「いいえ。とんでもございません。ヒルダ様、島へ行かれたのでしたら、さぞかしお疲れでしょう。今ヒルダ様の好きな『カウベリーティー』とクッキーを用意しますね。」


カミラはポットにお湯を沸かす準備をしながら言う。


「ありがとう、カミラ。実はね、お兄様に言われたの。お母様に手紙を書いて欲しいって。それで自分の部屋で書いているから、悪いけどお茶とお菓子は私の部屋に持ってきてくれる?」


「まあ。奥様にお手紙ですか?それはとても素敵な考えですね。ではお茶の用意が出来ましたらお部屋にお届けしますね。」


カミラは笑顔でヒルダに言う。


「ありがとう、カミラ。それじゃお手紙を書いて来るわ。」


こうしてヒルダは部屋に戻ると、一生懸命文面を考えて手紙をしたためた。内容に行き詰まれば、懐かしいカウベリーの紅茶を飲み、故郷に・・・そして母に思いをはせ、ヒルダは7枚にもわたって手紙をしたためたのだった。




午後6時―


コンコン


アパートメントのドアノッカーが叩かれた。ヒルダとカミラはすぐに玄関まで出迎えると、そこにはジャケットを羽織った、少しだけ正装したエドガーの姿があった。


「ヒルダ、迎えに来たよ。さあ一緒に食事に行こうか?もちろんカミラも一緒に3人でね。」


そしてエドガーはヒルダに手を差し伸べる。


「はい。お兄様。」


ヒルダはその手をしっかり握りしめるのだった—。



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