御子神蒼生08
面接の前に、ハナの様子を見に行く。
きちんとスーツを着て、ネクタイを締めて。
髪の毛も相当にみじかくして以前のぼくとは別人のようだ。
でも、様子を見に行くっていうのは口実。
本当は勇気をもらいにいくんだ。
こうやってても逃げ出したくてしょうがない。
できることなら、行きたくない。
もうどこかに消えてしまいたい。
それが本音だ。
「先生、おはようございます」
「おーっ、誰かと思ったよ。
すごい、垢ぬけたな。
男前になって」
「ところで、ハナは」
先生の段ボールハウスからぴょこんと顔だけ出すハナ。
きょろきょろして外に出てくる。
「ハナ、おいで」
すこしキョロキョロしながら、ぼくのところに歩いてくる。
歩いている姿までかわいい。
ぼくは、両手で包み込むように抱き上げる。
うん、痩せてたりしていないみたい。
「この子はすごい賢い子だよ。
ほんとうに世話がかからない。
おとなしくて、ごはんだけあげてたらいいって感じだよ」
「元気にしてたか」
ハナはおとなしく抱かれている。
丸い目でぼくを見て、にゃあとなく。
この子は人間の言葉がわかるように返事をする。
「それにさ。
この子は虫とかトカゲとかおれのとこに持ってきてくれるんだよ。
お礼のつもりかな。
こいつは猫の優等生だな」
すごい子だね。君は。
ぼくは胸に抱いて頭を撫でる。
目を細めるハナ。
「おいおい、今から面接だろ。
そんなことしたら、いっちょらに猫の毛がつくぜ」
「いいんですよ。ハナの毛ならね。
ぼくにとってのお守りです」
ぼくはそう言って笑うのだった。
ハナも笑うような顔をした。