御子神蒼生06
炊き出しのお弁当を持ってハナのところに帰る。
今日は並ぶ人が少なかったみたいで、2つもらうことができた。
ボランティアの人はぼくたちの事情をよく知っているみたいだ。
とにかく、この時期は多めにもらっても腐らない。
段ボールの住み家に戻ると、ハナが迎えてくれる。
逃げなかったんだ。
ぼくが座るとひざの上に乗ってくる。
そして、ぼくの身体に横顔をこすりつける。
ぼくはその頭を撫でる。
嬉しそうに目を細めるハナ。
ぼくは、お弁当を開けてハナとたべる。
おかずは魚のフライとかコロッケとか揚げ物中心。
ごはんと衣をはがした魚をハナに分ける。
そう、もともと食は細いほう。
これくらいで十分だ。
ハナがいるだけで、すごく心強い。
たぶん、一人なら折れてしまっただろう。
この小さな毛玉には不思議な力がある。
猫は勇気でもある。
そう、引きこもっていた時も先代ハナがぼくを見に来てくれていた。
それで、本当は救われていたんだ。
今になってそれがわかるようになった。
猫は幸せそのものなんだ。
明日もがんばろう。
そんな気持ちが湧いてくる。
今日もハナを抱いて眠る。
ハナはぼくの懐の中でおとなしくしている。
猫って勝手気ままに見えるけど、飼い主の状態がわかってるんじゃないかな。
ビニールテントに明かりがともっているところがある。
テレビがついているところもある。
本当にたくましい人たちだ。
でも、ぼくもなんとか生きていけるって勇気をもらえる。
感謝だ。
今日もぐっすり眠れる。
引きこもっていた時はこんなに眠れなかったな。
余計な事ばかり考えて、自分を責めてしまう。
ここでは生きることだけ考えてればいい。
そう、世界は人間にとって過剰なのだ。
猫たちと一緒で食う寝る、それだけあれば十分なのだ。
そんな簡単なことを忘れてしまう。
異世界での生活は満ち足りていたが、空虚だった。
先代ハナが異世界に飛ばしてくれたのは、ぼくに何かを教えようとしていたのかもしれない。
ぼくはその夜、先代ハナの夢を見た。
内容は覚えていないがとてもあたたかい夢だった。