御子神蒼生03
ここはどこだったっけ。
段ボールの匂いがする。
そうだ、ぼくは段ボールに包まって眠ったんだったけ。
それにしても良く寝た。
こんなにぐっすり眠ったのって久しぶりだった。
なんか落ちるとこまで落ちたって感じ。
でも、人間ってこうなっても生きていけるんだって。
なんか大きな荷物をおろした気分。
それはおじさんたちのおかげだけでない。
この胸の中の暖かさ。
昨日の毛玉はまだぼくの胸の中にいた。
ふつう猫って早起きで、朝早くから飼い主を起こすものなのにね。
こいつはぼくが起きるのをまっていてくれたんだ。
そういえば、子猫の名前決めてなかったな。
黒と白の八割れの女の子。
人間の言葉がわかるのかって思うくらい賢い。
まるで…
ハナ。
そうだ、この子はハナの生まれ変わりだ。
だから、ハナって名前にしよう。
ぼくは子猫を胸から取り出して、目の前に出す。
やっぱりハナにそっくりだ。
あの母親が拾ってきたばっかりの子猫。
ぼくの手の中で嬉しそうにミーミー鳴いていた子。
ハナ。
ぼくは子猫に話しかける。
子猫はミーって嬉しそうに鳴く。
ハナ、ハナ、ハナ…
何度も名前を呼ぶ。
ハナはそのたびにミーって返事する。
それから、ぼくの顔に顔をこすりつける。
「おい、にーちゃん。
そろそろ起きろよ」
「あっ、おはようございます」
「寝られたか。
なかなか、最初は寝にくいかもしれないけど、すぐに慣れるよ」
「いえ、ぐっすり眠れました」
「あれっ、猫。
にーちゃん、猫飼ってるんか」
「ええ、ハナって言います」
「そうか、猫飼ってるやつわりといるよ。
さみしいからな」
おじさんはそう言って笑う。
この人もたぶん猫が好きなんだろうな。
ぼくはおじさんのとろけるような笑顔を見てそう思った。