コント女神の泉01
今日も神たちは女神エリルの泉の周りに集まっていた。
そう、この世界のことを決めるために。
神々は人間とは違う。
民主主義なんて原始的な制度を使わないのだ。
多数派の意思が一般的な意思とみなされる。
多数派が正しいとは限らないのにだ。
神はその愚かしさを分っていた。
プラトンの哲人王の思想に近いだろうか。
最高神であるエリルにすべての決定をゆだねているのだ。
今日もエリルの前に神たちが陳情に現れる。
「今日はなんの用ですか?」
「聖人ニコライのことです。
エリル教最高の聖人であるニコライが亡くなりました」
「そう、残念ね。
彼は聖人という名にふさわしい人でしたね。
いったいなぜ、亡くなったのですか」
「ええ、バナナの皮ですべってこけ、打ちどころが悪く死に至りました」
「そう」
「それで、彼を生き返らせることはできないかと思いまして」
「なぜ?」
「彼ほどの聖人は100年に一度しか現れません。
彼は将来教皇になるべき人間なのです。
それが、バナナの皮で滑って死ぬなんて。
彼はエリル教の至宝だったのです」
「ええ、だからと言って、死は自然の摂理です。
いくらわたしでも簡単に例外を作ることなんてできません」
「しかし、彼を生き返らせることができれば、それは奇跡となります。
ニコライは聖人として伝説となるでしょう」
「でもね。バナナで転んで死んだのよ。
ベタすぎて、おもしろエピソードにもならないでしょう」
「いえ、それは異教徒に殺されたことにするのです。
彼の13番目の使徒が裏切って、彼を売ったことにすれば、どうでしょう」
「却下。
そんなことできるわけないでしょ。
わたしたちは、神なんですよ。
とにかく、生き返らせるのはあり得ないです」
エリルは正しい判断を行う。
その判断には、疑念を抱く余地もない。
正義に則った判断がなされるのだった。