吟遊詩人シキブ06
小さな灰色のフードの男が現れる。
その色とあいまって、ネズミみたいなイメージだ。
「吟遊詩人か。
アイザックがいると聞いたんだがな」
「アイザックは、総統を倒しにいったよ」
「そうか、アイザックと勝負できると思ったんだがな。
暗殺者としてどちらが上か決着をつけたかった。
しかし、あいつでも総統には勝てないだろう」
「あなたよりアイザックのほうが上だよ。
アイザックならわたしはもう死んでるよね。
あなたは姿が消せるだけ。
そして、それはわたしには通じない」
「ククッ、俺はまだ本気を出してないぜ」
「そう、わたしもだよ」
「ぬかせ。お前は戦いのプロではない。
もう、姿を消す必要はないな」
素早くナイフで突いてくる。
さすがに速い。
避けるのが精一杯。
わたしは距離をとって傘を広げる。
わたしの戦闘態勢になる。
相手は笠ごしにわたしを攻撃することとなる。
でも、相手からはわたしの姿は見えないのだ。
そして、わたしは音で相手の位置がだいたいわかる。
今度はあなたが見えない敵と戦う番だよ。
ウェルテルは腰のサーベルを抜いて突きを繰り出す。
サーベルは傘を貫く。
ハズレ!
間合いを考えて武器を変えてきたみたいだ。
「そういうことか。
しかし、俺たち暗殺者はな。
暗闇でも相手を殺せるんだ。
音でわかるのはお前だけじゃない」
サーベルが傘を貫いてわたしの胸を貫く。
待ってたよ。
確かにわたしは戦いのプロじゃない。
アイザックより弱いといってもこいつを無傷で倒すほどの剣技は持っていない。
でもね。刺し違えるくらいのことはできるよ。
「フフ、当たりだよ」
わたしはそう言って、傘の柄から細剣を抜く。
そして、サーベルに沿うようにそれを突きだす。
わたしはウェルテルに剣が刺さる手ごたえを感じるのだった。