吟遊詩人シキブ03
メアリーの守っていた矢倉が崩れる。
思ったより早い。
あの胸だけ女。
すきじゃないけど、魔法使いとしては認めていた。
カルマさんのサーガでもモブのひとりとして唄ってやるつもりでいた。
それなのに、こんな簡単に。
そして、正門でも火の手が上がる。
ケントとベルツさんまで。
カルマさんとアイザックさんはどうなのかな。
さっき、敵の本陣に行ったって情報を聞いた。
それしかないよね。
でも、もしそれが成功したら、すごいサーガになる。
とにかくカルマさんを信じて待つしかない。
逃げるっていう手もある。
わたしたちは戦士ではない。
ただの記録係にすぎない。
それにわたしが死んでしまったら、わたしのいままでに作ったサーガもなくなってしまうのだ。
録音して残すような機械があったらいいのにね。
吟遊詩人は誰にも肩入れしない。
だから、戦場で捕まっても許してもらえる。
楽器と服以外を全部渡し手をあげると、逃してもらえるのだ。
別に確固たる決まりがあるわけではないが、それが暗黙のルールとなっている。
本当なら逃げの一手だ。
だけど、カルマさんと一緒にいるうちに、なんか考えが変わったんだよね。
わたしの能力があれば、だいたいの戦場で生き延びることができる。
なのに、まだ村人を守っている。
まるでカルマじゃん。
どんな不利な仕事でも人のために受けてしまう。
損得計算なんてできないバカ。
でも、バカってうつるのかな。
カルマさんが戻るまで、持ちこたえてやる。
わたしは傘を構える。
魔導士系なら撥ね返すことができる。
でも、わたしが弱いのは近接戦闘。
矢や魔法は撥ね返すことができるが、人間を撥ね返すことはできない。
だから、ここまでこられたら終わり。
敵の歓声が起こる。
その音から敵がどこまで来ているかわかる。
たぶん、一の門は破られたみたいだ。
あと、門は2つ。
ただ、魔法はぶち込んでこない。
やっぱりリフレクトを警戒しているのだろう。
「二の門で防ぎます。
みなさん、配置についてください」
わたしは村人たちに指示をする。
村人たちは決めたとおりに防衛戦をはじめるのだった。