エリル教修道士ベルツ09
いつの間にか、わての周りには敵がいなくなりました。
遠巻きにわてを囲むだけです。
敵の顔は、さっきまでの恨みがこもったものではなく、恐怖に彩られています。
なんか、劇でみたことあります。
ピエロのメイクをした殺人鬼が、人を次々と殺していくんですな。
それは普通の人が殺していくより怖いですな。
こいつ何考えてるかわからん、こういうのが一番怖いんです。
わては周りを見回して、笑います。
名演技ですな。
そやけど、こういう話の落ちは決まってましてな。
ヒーローが現れて、殺人鬼を倒すっていうんですな。
わてからしたら、全然違いますけど。
こいつらにとっては、自分たちが正義。
そやから、わてを殺すのが正義ですな。
わてに近づいてくる者がいます。
剣を構えて円の中に入ってくる年配の男性。
その気配はただならんものがあります。
そう、達人の域に達してます。
「ベルツ殿でしたかな。
あなたの噂は聞いてます」
白髪を束ねた小柄な老人です。
好々爺としているけど目は鋭い人です。
「わしはギョウブ。
革命団で剣の師範をさせていただいています」
ギョウブ、聞いたことがあります。
当代を代表する剣の達人、この国を2分する剣の流派の一方の師範。
ただ、その自由な性格によって各地を旅していると聞く。
「ギョウブはんですか。
こっちもお噂は聞いてますわ。
えらい強いらしいでんな」
「いえいえ、昔のことです。
今はただの老人にすぎません」
「それやったら、こんな小さな村はほっておくように言ってもらえまへんか。
わてもあんたと戦いたくありまへん」
「そうですね。
これだけの兵でこのような小さな村を攻める、いいとはおもいませんな。
ですが、今のを見て、あなたと戦いたくなりました。
あなたと戦った後、総統に進言しましょう」
弱い者いじめをするようには見えまへんでしたが、バトルマニアですか。
ややこしい人でんな。
とりあえず、戦わなあきまへん。
わては、錫杖を構え相手を牽制するのだった。