剣士ケント10
出来るだけ高く。
そして速く。
この剣士と戦うにはそれしかない。
いままでの俺では勝てない。だから俺を超える。それしかない。
100%ではなく120%の力で戦うしかないのだ。
俺は今まで以上に高く跳び滑空する。
燕のように空を滑る。
飛燕剣それはこの姿からつけられた名だ。
メルキドと交差する。
そのとたん、手首に大きな衝撃。
俺の剣が半分に砕けて切っ先があらぬ方向に飛ぶ。
そう、俺の手にある剣が半分の長さになっていた。
手首はその衝撃で骨が砕けたような感じがする。
「これで、お前は終わりだ。
なかなか面白い剣だったな。
だが、この破剣のメルキドには通じない」
俺はかがんだ姿勢から横目でメルキドを睨む。
人は勝ったと思ったとたん緩むものだ。
そこを突くことによって勝利の糸口が見えることもある。
そう、兄貴の教えだ。どんなにみっともなくても勝てばいい。
何かを守るためなら、どんなことをしても良い。
だが、メルキドにはそれはない。
こいつは本物だ。
それに比べて、俺は手首を痛めている。
「折れた剣では、もう戦えないだろう。
降伏するのだ。俺の部下になれ、そうすればお前はもっと強くなれる」
メルキドは俺に語りかける。
こういうところでも、力の差を感じる。
この余裕は、俺に万が一でも負けると思っていないのだろう。
それが慢心ではないことは俺にもわかっている。
「ごめんだな。俺の師はカルマの兄貴だけだ」
「そうか。仕方ない。
若い才能を潰すのは、俺の本分ではないがな」
おれは地面から剣を探す。
そう、倒れた兵士たちの剣。
できるだけ、重い剣だ。
折れた剣もなかなかいいものだったが、別に業物というわけではない。
兄貴の剣のように神官アキヒロ作のものではない。
あの剣はすごい剣だ。
今では金貨100枚でも買えないというのもわかる。
ただ、兄貴はその剣を見るときに哀しい表情をするのだ。
あの剣なら負けないのかもしれないな。
俺は倒れた兵士の剣を拾う。
そう、普通の剣だが、俺のより少し重い。
おれはその剣を構え、再び跳躍の姿勢をとった。