剣士ケント03
それから、兄貴の剣は恐ろしいほど実践的だ。
剣の動きはこれしかないというくらい無駄がない。
あくまで数理的な問題を解くように最良の剣筋をなぞるのだ。
俺はそれを美しいと思った。
次にカルマさんの前に、俺を捕らえたあの剣士が立つ。
こいつも、すごい気を放つ。
くやしいけど、俺の時にはなかった気合だ。
表情も俺の時のように舐め倒した感じではない。
「お前がカルマか。
なかなかやるな。
しかし、その素人の剣では元宮廷剣術師のわたしには勝てないな。
剣は型に始まって型に終わる。
おまえの剣はまるで剣術ごっこだ。
死への手土産だ。本物の剣をみせてやろう」
上段に構える盗賊。その構えにも気負いはない。
宮廷剣術師は王や貴族に剣を教える立場。
普通の腕ではなれない立場だ。
「ごたくはいいから、さっさと殺りあおうぜ」
カルマさんは嬉しそうに笑う。
さっきも笑っていたが、より口角を上げて盗賊に向き合う。
この人は危険が大きいほど、嬉しそうに笑うのだ。
そのカルマさんのところに盗賊が斬り込む。
そう、この男の剣は先手必勝。
俺も何もしないうちに倒された。
上段からの剣閃、それは切れのある放物線を描く。
まるで、雷のようにカルマさんの脳天に落ちる。
カルマさんは動かない。
斬られたと思うくらいのタイミングで剣撃が決まる。
しかし、カルマさんは倒れない。
ミリで避けて元の位置に戻っているのだ。
そのまま、盗賊に剣を突き刺す。
剣術は攻撃の後すぐに大きな隙が生じる。
カルマさんの剣はその最大の隙をつく。
今のが、一番強いやつだったのだろう。
盗賊たちは、腰が引けたようだ。
カルマさんを囲む円が大きくなる。
たぶん、手下たちはカルマさんに敵わないと解かっている。
しかし、頭目も怖い。
「おい、お前ら。
逃げるぜ。
お前ら、俺が逃げるのを助けろ」
頭目は、そう言って逃げようとする。
手下はカルマさんの前に群がる。
もう、戦う気力も持っていないようだ。
「お前ら、退け!」
カルマさんが一喝する。
そのとたん、盗賊たちは左右に別れて道ができるのだった。