剣士ケント02
「殺れ!」
盗賊の首領の合図で、子分が斬りかかる。
どいつもなかなかの構えだ。
それに戦い慣れしている。
その剣筋に躊躇はない。
全員、人を殺している剣だ。
カルマさんは全然ガードをしていない。
剣技には攻めの構えと防御の構えがある。
カルマさんはどっちでもない。
あくまで自然、どこにも力が入っていない。
とにかく型がないのだ。
盗賊が左右から襲い掛かる。
二人とも曲刀使いだ。
それに、抜群のコンビネーション。
ひとりひとりなら俺でも対処できるが、二人になるとやばいタイプだ。
お互いを補うように動く、それも会話は必要ない。
相手のことがすべて解かっている、そういう感じだ。
それに自分の力を過信していないのもやばい。
自分たちは2人でひとりだと割り切っている。
その左右からの曲刀がカルマさんを斬る。
カルマさんは避けない。
そう思ったとたん、曲刀はカルマさんをすり抜ける。
確実に斬ったと思った刃は空を斬ったのだ。
そして、盗賊2人の胴をカルマさんが斬る。
いや、俺の目でも剣閃にしか見えなかった。
2人は腹を抑えて倒れる。
そう、カルマさんは2人の刀をギリギリで避けたのだ。
それもミリ単位のところで。
大きく避けると彼らから離れてしまう。
だから、最小限のよけ方から相手を斬ったのだ。
言葉にすれば簡単だが、本当はできることではない。
相手の武器は真剣なのだ。
すこしでもかすればケガを負う。
普通の人間には怖くてできない。
たぶん、命をかけなくても勝てる相手だ。
それなのにギリギリのところに命をかける。
これが死にたがりと言われる所以なのだろう。
しかし、俺は兄貴に見とれていた。
いままで習った剣術と全然違うのだ。
教えられた剣は何にでも対応できるように構え、できるだけ力を込めて斬る、それだけだ。
そして、精神的なところに入っていく。
型に始まり型に終わるとかわけのわからない禅問答をして、自分の流派の価値を高めようとする。
兄貴はそうではない。
いくら美化しようとも剣術は相手を斬るためのものなのだ。
だから、兄貴の剣は風のように自由なのだ。