御子神蒼生20
話題は猫のことだけじゃなくて、初瀬さん自身のことも聞くことができた。
この前はぼくの話を聞いてくれたので、今回は彼女の話をきくことにする。
昔、実家で飼っていた猫の話から、今の仕事の話まで。
いろいろ話をしてくれた。
わりとおとなしい人かなって思ってたけど、そうじゃないってわかった。
でも、逆に好感度はアップした。
「ご馳走様です。
すごくおいしかったです」
彼女は深く頭を下げる。
「こちらこそ、ありがとうございます。
いろいろお話できて楽しかったです」
「次はわたしにおごらせてくださいね。
っていっても居酒屋とかそういうところで。
こういうところは特別な日だけで」
えっ?次?
「はい?」
戸惑ったように聞き直すぼく。
僕となんかいても楽しいわけがないし。
「絶対ですよ。
御子神さんってすごく聞き上手だから、すごく楽しかったです」
初瀬さんはぼくに振り返って手を振る。
「ええ、いつでも大丈夫です」
そう言ってぼくは下を向く。
送っていくとかいうのは遠慮されたけど、この時間なら大丈夫って。
でも、なんか嬉しい。
ぼくは帰り道で考える。
彼女の話は色々聞けた。
なんか普通のお嬢さんって感じだった。
でも、いつかスイーツのお店を出すのが夢って語ってくれた。
小さなお店で少し喫茶スペースもあって。
それから、看板猫がいておいしいコーヒーを入れられる旦那さんがいる。
でも、ぼくの夢ってなんだろう。
ハナと暮らしてるだけでそこそこ幸せだし、特にほしいものもない。
食べるものは弁当や時々の外食ですごく満足だし。
外食といってもラーメンや牛丼、その他に外食チェーンで十分だ。
だから生活費は給料で少し貯金ができるくらいになっている。l
資産運用も順調で少しずつ増えている。
FIREとかいうのもできるくらいだ。
なんかぼくの人生は余生のようだ。
それも猫がくれた穏やかな人生。
たぶん、老人になった浦島太郎もこういうふうに過ごしたんだろうな。
すべて猫のおかげなのだ。
ぼくはそれから猫に恩返ししたいと思うようになった。