御子神蒼生17
「御子神さん、今日も来てくれたんですね」
初瀬さんが話かけてくる。
30歳前半のかわいい感じの女の人だ。
たぶん、独身だったと思う。
最近、ここでよく会う。
だから少し話をするようになった。
「ええ、家にいてもやることがありませんから」
「わたしもです。
ここに来て猫ちゃんたちに会えるのが、唯一の癒しなんです。
わたしのマンションは猫が飼えないんです」
「そうなんですか」
「御子神さんは猫を飼っておられるんですね」
そういえば前にハナのことを初瀬さんに話したような気がする。
「ええ、八割れの子猫でハナっていいます」
「よかったら見せてください。写真」
ぼくは、スマホからハナの写真を見せる。
「かわいい~。
それにすごく頭がよさそうです」
「ええ、本当に頭のいい子なんです」
「でも、この子がいるのにここに来てるんですか。
帰った時に怒ったりしないですか?
この浮気ものって」
「はい、すこし匂いを嗅いだりしていますが、すぐに甘えてきます。
それにぼくは猫に救われたんです。
だから、少しでも恩返ししたいんです」
「そうですか?
もしよかったら、そのお話聞かせてくれませんか?」
「はい、でもあんまり楽しい話じゃないですよ」
「聞きたいです。
教えてください」
初瀬さんに乗せられて、自分のことを話はじめる。
もちろん、異世界の話はダメだ。
信じてもらえないし、自分の中では黒歴史になっている。
思い出しても、叫びだしたくなるほどのトラウマだ。
ぼくは、猫のお世話をしながら、ホームレスであったこととかを話す。
初瀬さんは、ぼくの話を真剣に聞いてくれる。
そして、初瀬さんはぼくの話に涙さえ流してくれるのだった。