御子神蒼生09
「お座りください」
「はい」
ぼくは、緊張しながら椅子に座る。
目の前の人は小柄な初老の人で、やさしそうな目をしている。
服は作業服のままだ。
「みこがみそうせい君ですね」
「はい、御子神蒼生です。
よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ。
こっちは作業服でごめんなさいね。
小さな工場なんで、さっきまで機械をいじってたもんでね」
「いえ、問題ないです」
「それで、職歴の方だけど」
「はい、これまで働いたのはコンビニだけです。
それも一週間。
他はずっと引きこもっていました。
最近はホームレスをしていました」
下を向いて話す。
「あ、もういいですよ。
十分です。
あなたの正直さはわかりました」
ぼくは顔をあげる。
社長はぼくを見て。微笑んでいる。
「住み込みでいいですね。
給与とか福利厚生とかはあとで事務の人から説明します。
よく聞いてくださいね。
小さな会社なんで、そんなに良くありませんが」
「えっ、ここで雇ってもらえるんですか」
「はい、合格です」
「どうして、これだけで」
「ええ、それは君の目です。
支援センターから来る人は目が絶望しているんです。
だから、ここにきても長く続かない。
すぐに元に戻ってしまうんです。
でも、君の目は違う、何か守るものがある目です」
なんかすごい人だ。
ぼくもハナがいなければ絶望の目をしていたんだろう。
「あっ、そうだ。聞くのをわすれてたことがありました。
蒼生くんは猫アレルギーとかないですよね」
「はい?」
「事務所に猫がいるんですよ」
この人も猫が好きなんだ、ぼくは緊張も忘れて心からの笑顔になるのだった。