始まりは
「よーう、ユウ。そんなとこでどうかしたか?」
駅前でラムネを飲んでいると、近所のおじさんに声をかけられた。何も無いと答えれば、そうか、と言いさっき収穫したらしいキュウリをくれた。
「塩かなんかないの…って、もういない」
おじさんがさっさと行ってしまったので、そのまま齧る。みずみずしくて美味しい。塩やマヨネーズがあればよかったなぁ、と思う。
ポリポリとキュウリを齧りながら時計を見上げる。予定の時間まであと10分。勝手に口角が上がっていく。
私が住む小さな村には、1日に5本だけ列車が走る。
街に出稼ぎに行っている人もいれば、学校に学びに行く人もいる。勿論それはお金のある人、才能のある人の話で、村人Aである私には関係の無い話だ。
そんな私が何故駅にいるのかというと、手紙が届いたからである。日付と時刻が書かれただけの簡素なものだったけれど、送り主が誰なのかはわかっていた。
精巧に創られた鳥の纏う魔力が、彼のものだったから。
ラムネをくっと飲み干す。口の中でシュワシュワと泡が弾け、喉を伝って落ちていく。少し気の抜けたそれは、いつもより甘く感じた。
ふわりと風が舞い上がる。じんわり染みる暑さと、土埃の匂いと…微かな、魔力の匂い。
パッと線路を見ると、霞むほど遠くだが、列車が見えた。
「5分も早いじゃん…!今日の車掌は優秀だ!」
ラムネの瓶をゴミ箱に押し込み、髪を手ぐしで整えて服をはたく。そわそわと落ち着かない足のまま、柵に近づいて身を乗り出す。
列車は速度を落として、ゆっくりと近づいてくる。
少しだけ。ほんの少しだけ、手から魔力を放出する。
運転の邪魔にならず、でも、彼に伝わるように。
「ユウ!」
停まった列車の真ん中、私の目の前のドアから、私を呼ぶ声がした。
ああ、彼は何も変わらない。
優しい声で私の名前を呼ぶところも、くるりと緩やかなパーマがかかった茶色い髪も、若葉のような明るい翠の瞳も、お日様の匂いがする魔力も。
「ヒナタ!」
大きな鞄を持って電車から飛び降りたヒナタは、柵越しに私を抱きしめた。ケラケラと笑いながら、力いっぱい抱きしめ返す。
「久しぶりだね、ユウ!会いたかったよ!」
「私も会いたかったー!」
こうして私は、5年振りに幼馴染との再会を果たした。