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私の世界戦争

7


 二週間後。

 連日、不安定な天気が続いている。

 季節の変わり目。

 最近はちょっと忙しい。

 ヒーローの真似事を始めたのだ。

 百合ちゃんは私のことを分かってくれない。

 過去と戦って勝利することでしか私は変われない。

 悪人に反撃して何が悪い?

 今までにされてきたことを考えたら自業自得。

 多少、怪我をしても因果応報。

 なのに百合ちゃんは私の行動を否定しようとする。

 だから百合ちゃんには黙ってこの活動を始めた。

 身バレ防止のために、全身黒ずくめの格好。

 体には黒いマントを羽織り、顔はマスクとサングラスで隠した。

 サングラスは一〇〇均で買った物を改造して、メガネの上からつけられるようにした。

 ヒーロー名は、”サイキックガール”ローズマリー。

 雨の日に世界を守った私のヒーロー。

 傘の剣を装備して、悪い奴らを切り倒す。

 でも今はもう傘の剣は要らない。

 ローズマリーは超能力を手に入れたのだ。

 見えない手の力は普通自動車くらいだったら持ちあげられるパワーがあり、変幻自在に形状を変えることもできる。

 この力を持って私のことを虐めてきた三年生たちを尾行し、正義の制裁を下す。

 痛みを思い知らせるのだ。

 それがローズマリーの活動。

 もう既に何人もの悪に鉄槌を下してきた。

 私には誰も勝てない。

 過去ですら。

 午後。

 能力を使って空中を移動しながら、私はとある人物を尾行していた。

 王川商店街。

 王川中の学区内にある商店街。

 ドラッグストアや一〇〇円ショップ、食品スーパーなどが揃った地域の商業拠点。

 ビルの屋上から商店街を見下ろす。

 突風。

 嵐の予感がする。

「やる……か」

 ドラッグストア。

 女が店から出てくる。

「アハハハハハハ」

 スマホを片手に大声で笑っている。

 よく知っている声。

「あぐ……」

 鳥海恵里菜。

 学校に居た頃、芥川結愛たちと一緒に私を虐めてきた中心的な人物の一人である。

 髪を染色し、活発で気が強い彼女はカースト上位。

「あぁ……、あう」

 頭痛がした。

 目眩がした。

 視界が歪んで嘔気がした。

「はぁはぁ……、大丈夫。大丈夫。大丈夫」

 言い聞かせると心が落ち着いた。

 最近、少し変われた気がする。

 過去のトラウマと戦って、私は強くなった気がする。

 王川商店街。

 不登校になってからはここに来るのが恐かった。

 中学校の知りあいと偶然会ってしまう可能性が高かったから。

 会ってしまったら発作を起こしてしまうから。

「すぅー、はぁー。ふー、ふー。大丈夫。大丈夫だ」

 深呼吸をした。

 鳥海恵里菜が不老川の方へ歩いて行く。

 私は後を追った。

 能力を使い空中を移動した。

 不老川の桟橋。

 山王橋。

 人気のない桟橋。学校からもほど近い。

 鳥海は河川のソメイヨシノの木々に隠れながらスクールバッグをいじり始めた。

 そして商品を取りだした。

 化粧品やお菓子などダグがついたままの新品。

「クスクスクスクス……」

 笑っている。

 万引き。

 これが彼女の日常。

 ここ数日。鳥海を尾行してきた。      

万引きの現場を何回も見てきた。

 ドラッグストアやスーパーで連日の犯罪行為。

 私を虐めるだけじゃなく学校の外でも鳥海は悪人だった。

 それを知って気持ちが少し楽になった。

 虐めは悪。

 あいつは悪。

 だけどそれに加えて窃盗犯でもあると思ったら、

「あいつには何をしてもいいじゃんか」

 と思えた。

「やってやる」

 私は決意した。

 そして空から颯爽と飛び降りた。

「おい! 何してるんだ!」

 強気。

 ローズマリーになった私はもう怖がらない。

「……え?」

 鳥海は驚いた顔。

 状況が飲み込めていないようだ。

「何してるのかって聞いてるんだ」

「え……? あ……」

「何だよ! 日本語も出来ないのか?」

 鳥海は私の正体には気がついていない。

 顔や体はマントやサングラスで隠している。

 でも長い間クラスメイトだったのに。

「何か話せよ!」

 能力を使い地面を叩いた。

 轟音。

 衝撃波が地鳴りになって響く。

「……う!」

 顔が引きつっている。

 能力を使うとみんなこうなる。

 みんな私を恐れる。

 ここでは私の方が上。

 カースト上位は私。

「私には力があるんだ。お前程度簡単に殺せるんだ」

 宣言すると心が踊った。

 あんなにも恐かった鳥海を相手にしても私はもう弱者じゃない。

「あ……、な、何なのよあんた」

「私? 私はヒーローだよ。悪を裁く正義のヒーローだ」

「はぁ? 頭おかしいんじゃないの?」

「うるさい!」

 私は能力を使い鳥海の全身を掴んだ。

 締めあげて持ちあげる。

 宙づりになる。

「あ……、あぐ」

 体を締めつける。

 肺が圧迫され呼吸が苦しそう。

「はぁはぁ……、あ、あぐ……」

「あははは! 私に口答えするな! 私は無敵なんだ!」

 学校に行っていた頃とはもう立場が違う。

 私はもうやられる側じゃない。

「鳥海さん。あんた……、万引きしてるよね? 毎日……、ずっと見てたんだ」

「……! はぁはぁ……あ、あぁぁ……」

「何でそんなことしてんのさ? 万引きは犯罪だって知ってるよね?」

 話せる程度に力を弱める。

 鳥海は苦しそうに答える。

「はぁはぁ……、あ、あぐ。べ、別に……、意味なんて、ない、わ」

 そうだ。

 こいつらはそうなんだ。

 深く考えず悪いことをする。

 考える知能がない。

 自分さえよければいい。

 その結果傷つく人のことなんて頭にない。

「ただの……、ノリっていうか、遊びっていうか……、それだけ、よ」

「はぁ? 何だよそれ!」

 能力を強める。

 大きな悲鳴。

「あぐあぁぁぁあ! ああぁぁ……」

 ミシミシ……、と骨がきしむ音がする。

 能力で触れたものは何となく感覚が伝わる。

「私のこともそうやって虐めてきたんでしょ!」

 学校に行ってた頃、鳥海からはたくさんの虐めを受けた。

 芥川や平沼綾花と共に中心になって虐めていた。

「はぁはぁ……、は? 何のこと……、あぐ、あぁぁ」

「許さない! あんたたちは許さない!」

 虐めのことを思い出すと高揚した。

 冷静でなくなる。

 心の中が燃え上がるよう。

 呼吸が速くなり、体がふわふわとする。

 目がかすむ。

「許……、さない!」

 悲鳴。

 泣き叫ぶような声。

 それは誰の?

 遠くから声がする。

 眼下には光。

 チカチカ。

 フラッシュバック。

 過去がまた私を縛る。

――学校に行ってた頃。

 不老川の河川敷が通学路だった。

 春も夏も秋も。

 空はいつも曇りだった。

 中一の秋ごろ。

 虐めは日に日に酷くなってきていた。

 諦め。

 心を麻痺させて自分を守っていた。

 そんなある日。

 下校途中。

「死ねえええええ!」

――ドンッ。

 声に気がついた時にはもう遅かった。

 背中を押された。

 突き落とされた。

 私は勢いよく不老川へ落ちた。

――バシャアアアアアアアァァン。

 水は冷たかった。

 川底の石に頭を打った。

 痛い。

 メガネを落とした。

 かかとや膝を擦りむいた。

 痛い。

「「アハハハハハハハ」」

 頭上で笑う声がした。

 誰かの声。

 聞き覚えがある声。

 よく知っている声。

 メガネを拾って頭上を見上げた。

「キモイー」

 鳥海恵里菜と芥川結愛。

 二人は笑っていた。

 私を見て笑っていた。

 痛い。

 頭が痛い。

 膝が痛い。

 みんな痛い。

 どこもかしこもみんな痛い。

「あぐああぁぁあああ」

 不老川。

 鳥海を締めあげる。

 あの日の面影はどこにもない。

 過去はこれで死ぬ。

 また一つ、私は成長する。

「あんたなんか死んじゃえばいいんだ」

 私のことを散々虐めてきた。

 そして万引きの常習犯。

 何も弁解出来ない。

 鳥海は何をされても当然の報いだ。

「死ねー!!」

 鳥海を不老川へ投げ込んだ。

 加減はしなかった。

 死んでしまえいいと思った。


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